ビリー・ザ・キッド 21歳の生涯(PatGarrett & Billy the Kid) 2017年1月23日 三日月座BaseKOMシネマ倶楽部 Knokin' on Heaven's Door といえば、すっかりエリック・クラプトンによるカヴァーが有名になってしまったが、元はと言えばボブ・ディランがこの映画のために書き下ろしたもの。 この映画で私が一番好きなシーン。パット・ギャレット(ジェームス・コパーン)に追われている、ビリー・ザ・キッド(クリス・クリストファーソン)が、昔の仲間のところにやってくる。大家族に囲まれて食事中だったこの男はビリーにも食事を勧める。 食べ終わると男は「ケリをつけよう」と言い出す。男は今はパット・ギャレットから保安官助手のバッジを貰っている。当然対立する者同士の間柄になってしまっているのだ。外に出るふたり。これから決闘が始まる。男は家族に「扉を外せ」と命じる。どちらか死んだ方の死体を運ぶための戸板だ。 「十歩だ」と男が言う。背中合わせに立ち、お互い十歩歩いたところで振り向いて撃つルール。男は「一歩、二歩、三歩」と言いながら歩いて行く。しかしビリーは歩き出さない。そればかりか、歩いて行く男をジッと見つめている。男は「八歩」と言ったところで振り向く。すかさず男を撃つビリー。 倒れている男のところにビリーが行くと、男は「(耄碌して)もう数すら数えらくなってしまった」と言う。 1973年の映画。当時この台詞にシビれて、もう一度観に行ったのを憶えている。 Mama, take this badge off of me ママ、バッジを外してください I can't use it anymore もう不要になったから It's gettin' dark, too dark to see 暗くなってきた 暗くて見えない I feel like I 'm knockin' on heaven's door 天国の扉を叩いている気分だ もうまさにこのシーンのために作られた曲じゃないですか。 以前、レーザーディスクで『ビリー・ザ・キッド 21歳の生涯特別版』というのが出た時に私はそれを買った。劇場版よりも長いというので喜んで買ったのだが、どうも私が観たものと大きく変えられていたような気がしてならなかった。私の記憶では、上のシーンのあと、男は川のそばに運んでくれと家族に言う。家族は扉に男を乗せ川に連れて行く。そこで、ボブ・ディランの Knockin' on Heaven's Door が流れたと思ったのだが、特別版では、この部分、インストロメンタルだった。なんらかの理由で差し替えられたのか、あるいはもともとここはインストロメンタルで、私の勘違いなのか。 しかし、戸板のように扉を使ったというのと、天国の扉という歌詞のダブルミーニングの上手さ。ボブ・ディランって凄い才能だわ。ノーベル文学賞を取るだけのことはある。 それで今回観たバージョンというのが、2005年にまた再編集されたものらしくて、さらに長くなったらしいのだが、肝心のこのシーン、ごっそりカットされてしまっている。男が「数も数えられなくなってしまった」と言った後、ビリーが馬に乗って去って行く。それでおしまい。川辺に連れて行って Knockin' on Heaven's Door が流れる美しいシーンは全て無くなっていた。どうなってるの? サム・ペキンパーといえば、私にとっては悪ガキが出てくるシーンが印象的。『ワイルドバンチ』のファーストシーンではサソリを焚火のなかに入れて焼き殺す子供たちが出てきた。『ゲッタウェイ』ではホテルでの銃撃シーン。ドンパチやっている階段の上の方で、とんでもない状況だというのに子供が「バーン、バーン」と口鉄砲ではしゃいでいる。 『ビリー・ザ・キッド 21歳の生涯』にもいました。ファーストシーン、ニワトリが流れ弾に当たって倒れると、それを拾いに行く子供。ラストシーンでは馬で去って行くパット・ギャレットに向かって石を投げつける子供。 サム・ペキンパーって、こういう悪ガキ的視線で映画を作っているような気がする。 1月24日記 静かなお喋り 1月23日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |