風雲電影院

ぼくの伯父さんの休暇(Les Vacances de Monsieur Hulot)

2015年2月27日
早稲田松竹

 季節は夏。都会の人たちが大挙して海辺の避暑地へ押し寄せる。電車やバスで来る人。車で来る人、その中でオンボロ車でやってきたのがユロ。大きな音を出すしスピードは出ないから、迷惑千万なのだけど、そんなことはどこ吹く風。

 これはジャック・タチのユロ・シリーズの一本。ユロが避暑地のホテルに泊まり、そこで休暇を過ごす間のギャグ・スケッチ。ユロが引き起こす、主に他人迷惑な様子が描かれていく。観ていて、「あれ?」と思ったのは、ジャック・タチ演じるユロって、ピーター・セラーズじゃんと思ってしまったこと。観終って家に帰って調べてみたら、私はここまで古い映画に関しては詳しくないのだが、どうもジャック・タチの方が、この手のキャラクターとしては先だったんじゃないだろうかということ。少なくとも『ぼくの伯父さんの休暇』は、1952年の作品。ピーター・セラーズが映画デビューするのが『マダムと泥棒』で1955年。ピーター・セラーズの古い映画はほとんど観ていないが、彼が悪意のない迷惑キャラを演じるクルーゾー警部を演じた『ピンクの豹』は1963年。ジャック・タチの方がはるかに前だ。

 厳密に言うと、それじゃあ、この悪意無くふるまっていることが結果的に物を破壊したり人に迷惑を及ぼしていまうキャラというのが、それ以前はまったく無かったのかというと、それも微妙。サイレント喜劇では、その手のキャラはけっこういたはず。ただ、ジャック・タチほど小粋に描いたのは無かったんじゃないかと思えてくる。ジャック・タチもおそらくサイレント喜劇映画を意識しているんだろと思うのは、このユロ、ほとんど台詞が無い。すべて身振り手振りで表現する。ピーター・セラーズのクルーゾー警部には台詞はあるが、ギャグ部分は、ここでもほとんど台詞なし。これもサイレント喜劇や、おそらくジャック・タチを参考にしたんじゃないだろうか。もともと私が感じるのは、本当に達者な喜劇役者は台詞で笑わせるのではなく、動きで笑わせられなけりゃいけないんじゃないかということ。落語や漫談といった分野では話芸というものがあるが、役者は身体で表現できなければ、その存在価値はない。それも変な顔をして見せたり小手先の変な動きで笑わせるのではなく、少ない顔の表情で、オーバーな動きも見せないで、可笑しさが伝わってくる。それが出来て初めて一流の喜劇役者だと思っている。ジャック・タチは、そういう意味で、超一流の喜劇役者だ。

 一時間半近く続く映画の中に、良質なギャグシーンがいっぱい詰め込まれている。その数々を書いても、その本当の面白さは伝わらないから書いても仕方ないだろう。とにかく「是非観て」としか言いようがない。国民的大ヒットした某喜劇シリーズなんかよりは、はるかに上を行く良質なコメディだから。それでも、日本の某シリーズ喜劇の方が面白いと言うなら、そういう人とは、私は話が合わないとしか言いようがない。

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