ブロンソン(Bronson) 2013年11月2日 DVD 『ダークナイト・ライジング』の敵役トム・ハーディ主演。監督は『ドライヴ』のニコラス・ウィンディング・レブン。 どうも私は『ドライヴ』は苦手な映画だったのだが、これを観てようやくあの映画が理解できた。『ドライヴ』の主人公は、やはり善良な男ではなく、かなりヤバい男として描かれていたんだ。『ドライヴ』の主人公、一見温厚そうで、実はその裏ではかなり凶暴な男なんだもの。しかも見方によってはストーカーなんだし。『タクシー・ドライバー』と同じだよね。 それでこの『ブロンソン』。実在の人物マイケル・ピーターソンの事を描いた映画。ブロンソンとは、闇の格闘技試合でのリング・ネーム。映画俳優のチャールズ・ブロンソンから取っている。小さなときから手の付けられない乱暴者で刑務所に入れられ、そこでも暴力行為を繰り返して4年かそこらで出られる刑期を30年以上続けている。刑務所を自分のホテルだと言い放ち、やりたい放題の暴力で居続けている。 彼の思う事は「有名になりたい」。しかし彼には有名になるための才能が何もなく、選んだのは暴力。その表現方法は自分の肉体のみ。武器は何も使わないというところが妙に清い。衣服も身につけず、全裸になって看守相手に拳を振るう。観ていると足で蹴るということもほとんどない。ひたすら拳骨で殴りかかる。これならシャバでボクサーになったら、世界チャンピオンも夢ではないのではないかと思うのだが。 映画の後半、マイケルが絵を描いているところを看守が見て、ひょっとして絵の才能があるんじゃないかと思い、その絵をマイケルと一緒に所長のところ見せに行くシーンがある。ところが所長はその絵を見ようともしなかったことからマイケルは再び逆上。アートを暴力の形で表す。ははあ、『時計仕掛けのオレンジ』を引き合いに出している批評って、これのことか。 これといった細かなストーリーは無い映画で、ひたすらブロンソンことマイケルの暴力を描く映画。この映画への好き嫌いは人によって、はっきり別れそう。私は『ドライヴ』に嫌悪感しか感じなかったから、この暴力の噴出には驚き呆れながらも観ていられた。 刑務所にとっては厄介な存在だが、マイケルという男は刑務所という場所以外では生きられないのだろうか? この映画で描かれる時期はまだ若いからいいが、彼が年を取って体力が無くなった時、いったい彼はどうなるのか。 「有名になりたい」という欲求は誰にでもあるだろうが、それが刑務所内での暴力という形でしか自己表現が出来なかった男。世間から注目されたい、名前を残したいってことが、穏やかに静かに人生を過ごしたいということよりも上にあるというのは凄い。 『仁義なき闘い 広島死闘篇』の大友勝利(千葉真一)も、手の付けられない暴力を振るう男として描かれているが、こんなセリフがある。「わしら、うまいもの食って、マブいスケ抱くために生まれてきたんじゃないの」 食欲も性欲も関係なく、ただ暴れるだけのマイケルって、何なのだろうか? 11月3日記 静かなお喋り 11月2日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |