風雲電影院

ブロンクス物語(A Bronx Tale)

2016年4月4日
三日月座BaseKOMシネマ倶楽部

 1993年、ロバート・デ・ニーロ初監督作品。

 時は1960年代、ニューヨーク・ブロンクス地区を舞台にした物語。ポピュラー音楽ファンには、音楽の使い方が豪華で、それだけで観ていて退屈しないし、うれしい2時間。話の最初の方はドゥーワップばかり。そこから、ジャズのスタンダードやら、ブルースやらが流れて、さらに時代が進むとジェームス・プラウン(マンズ・マンズ・ワールド)がかかったり、ジミ・ヘンドリックス(オール・アロング・ザ・ウォッチタワー)にムーディ・ブルース(サテンの夜)にビートルズ(カム・トゥゲザー)。若者たちがドーワップなんて面白くないって、ロックに走ったりとかって、台詞にそんなことが挟まっていくっていうのも楽しかったり。それでラストはまたドゥーワップで〆るっていう構成も悪くない。

 このころのブロンクスって、かなりヤバイ場所だったらしい。もっとも今ではだいぶ治安も良くなっているそうだけれど。、
 ブロンクスに住む少年カロジェロは、バスの運転手をしている父親(ロバート・デ・ニーロ)、母親と一緒に暮らしている。父親はとにかく黙々と働く真面目な男。息子にも「才能の無駄遣いをするんじゃない」と真面目に生きる道を説いて聞かせている。しかしカロジェロはそんな父親よりも、街の顔役ソニーの生き方に惹かれていく。真面目に働く奴なんてバカだ。そりゃあそうだ。バスの運転手だけやって貧しい暮らしをしているよりも、酒場や、博打の裏稼業で大金を稼いで楽しくやっている方がはるかにいい暮らしだ。

 これってありがちな話ですよね。そんなに悪い子なんかじゃないのだろうけれど、おそらく父親への反抗期もあるんでしょう。よからぬ世界に行ってしまう息子と、なんとかそんな連中から息子を奪い返そうとする父親。こんなテーマでも、この話は観ていて重くならないのがいい。父親がシャカリキになってマフィアに向かって行ったり、息子と大きな衝突を起こすってわけじゃない。ポピュラー・ミャージックの変遷を聴かせながら、時が流れていく。

 後半、カロジェロが黒人の女の子に恋してしまって、なんとなく『ロミオとジュリエット』みたいな展開になってしまって、父と子というテーマから外れて行ってしまうのも嫌いじゃない。ソニーに言われた、好きになった女性が本当のいい女性かの判断に、車のドアでテストしてみろと言われ、それを実行するところなんて、いいシーンじゃないの。

 結局、カロジェロ自身が人間的に成長して、父親から言われたことも、街の顔役から言われたことも、それぞれから教訓を得たと気が付くところで映画は終わる。これが何とも、いいラストなんだなぁ。決して説教じみてない。それに父と子がそれほどぶつかることなく、父も子を立てて接するし、子も父をパカにしているわけではない。終わってみれば、恋愛も含めた、子供の成長を描いた青春物語。しかも、ふんだんなポピュラー・ミュージックを盛り込みながら。
 とても気持ちがいい映画を観たなと感じた。

4月5日記

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静かなお喋り

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