風雲電影院

デリンジャー(Dillinger)

2012年9月10日三日月座BaseKOMシネマ倶楽部にて

 ママス&パパスというポップグループはあまり好きでは無かったが、それでもヒット曲の『夢のカリフォルニア』とか『マンディ・マンディ』はラジオから嫌になるほど流れていたから、そこそこ興味はあった。
 ママス&パパスというグループ名と、その楽曲からさぞかし仲の良い、いい関係のグループだと思っていたら、結構メンバー間では不倫があったりしてドロドロだったらしい。
 そんな張本人でもあるミシェル・フィリップスが、『デリンジャー』という男だらけの映画の中で、紅一点という感じで出ているという興味もあって、封切り当時に観に行った記憶がある。
 音楽雑誌に出ていた写真のミシェル・フィリップスは当時の私には清純そうに見えて、とても不倫などというイメージは湧かなかったのだが、何しろギャング映画の情婦役である。これがもうぴったりぴったりはまっていて、「あらあらあらあら」となってしまった。

 とはいえ、『デリンジャー』は男の映画だ。それも男が死んでいく映画。

 主演はウォーレン・オーツ。確か『ワイルドバンチ』でいい役者だなあと思ったのが最初で、そのあとピーター・フォンダの『さすらいのカウボーイ』を観てファンになった。そして『デリンジャー』で初主演。

 実在の犯罪者ジョン・デリンジャーと顔が似ているというのが抜擢された理由らしい。もちろん彼が主役だから、彼の死で映画は終わる。この映画館の前で殺されるシーンの素晴らしさは是非ご覧になってほしい。そのひとつ前のシーンで、タレこみをする女性が出てきて、ベン・ジョンソンと会話するのだが、このときに真っ赤なキャンデーが強調される。あまりに露骨で不自然な気もしないではないが、それが次の映画館前に繋がる。赤いドレスの女。そして映画の序盤から重要な意味を持っているベン・ジョンソンが吸っている葉巻が、このシーンに集約する。

 ウォーレン・オーツといえば思い出すのが、パイオニアのカーステレオ、ロンサムカーボーイのテレビCM。荒野にウォーレン・オーツが立っていて、ライ・クーダーの音楽が流れる。もうそれだけでカッコよくて、伝手を頼って、このCMの大判のポスターを手に入れ、長いこと部屋に貼っていた。「ぼくにとってロンサムとはフリーダムということなんだ」というキャッチコピーに痺れた。ひとりでいることがまるで苦にならなくなったのは、あれからかもしれない。あのときのスタイルが青いシャツに白の麻の上下。サングラス。私も真似したっけ。

 そのウォーレン・ウォーツが亡くなったのは、それから数年後。「えっ!」と思ったのを憶えている。いつ、何が原因で亡くなったんだっけと思って検索してみたら、やけに見たことがあるページが出てきた。あらららら、これ私が書いたんじゃないか! 『静かなお喋り』の今年2月18日。Shall We Gather At The River?という讃美歌のことを調べていて『ワイルド・バンチ』に行き着き、そして出演者は、いつなんで死んだか調べたんだったんだ。忘れっぽくなってきたなあ。

ウォーレン・オーツ。1982年没。53歳。心臓発作。

 プティボーイ・フロイド役のスティーヴ・カナリーの死にざまがカッコいい。逃げ込んだ民家で、まわりを囲まれ、家の人に聖書を渡されると、もう覚悟しているというようなことを言い。「もう聖書は手遅れだ」という言葉を残して、銃弾の中へ飛び出していく。

 そしてなんといってもハリー・ディーン・スタントン。自動車から落とされて置いてきぼりになり「ついてねえや」を連発しながら、村人たちから至近距離からの一斉射撃を浴びて死んでいく。『エイリアン』では猫を捜しに行ってエイリアンに襲われてしまった役もあったが、この死に方は一番記憶に残っている。

 ハリー・ディーン・スタントンは、今年『きっとここが帰る場所』に出ていてびっくり。現在86歳だそうで、いつまでも元気に映画に出ていただきたいものだ。あっ、『アベンジャーズ』にも出ているらしい。観に行かなくちゃ。

9月11日記

静かなお喋り 9月10日

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