風雲電影院

合衆国最後の日(Twilight's Last Gleaming)

2013年5月15日
キネカ大森

 1977年作品。ロバート・アルドリッチの映画は70年代以降のものは、ほとんど映画館で観ているが、これはなぜか観ていない。なぜだろう? 日本公開が77年の5月ってことは会社勤めしていたときで、そういえばこのころはちょうど忙しくて映画どころではなかった時期だったのだと思う。日曜は店もやってて暇があまり無かったんだった。

 アルドリッチという人は男と男の闘いをガチで描く監督で、それでいてエンターテイメントに徹しているという珍しい人。それはこの『合衆国最後の日』でも言えることで、例によって女性はひとりも出てこない。『ロンゲスト・ヤード』とか『北国の帝王』とか、とにかく男臭い映画が多い。

 それに加えてアルドリッチ、この映画を作っていた時は、本当に言いたいことを言わせてもらう思っていたに違いない。設定としては1981年と、すぐ先の未来。ベトナム戦争を引きずっているって映画がこのころ多かったが、ひょっとするとこの映画が一番正面切って物申していたのかもしれない。それでいて、ちゃーんと娯楽作としても見せてしまうあたりがアルドリッチなのだが。

 無実の罪で刑務所に入れられたローレンス・デル(バート・ランカスター)が脱獄して、ミサイル基地に潜入して立てこもってしまう。彼の要求は、金と共に逃亡用に大統領専用機の提供だが、さらに一番重要なのは秘密文書の公開。ベトナム戦争を長引かした証拠書類。このおかげで死ななくても済んだアメリカ人がどれだけ死んいったのかを公にさせようというのが彼の一番の目的。そんなことは到底できないのが政府側なわけで、これだけは出来ないと断固拒否すると、ならば本気で大陸横断ミサイルのスイッチを押すぞと脅しをかける。政府側もまさかそんなことはするまいと思っていると、本気でスイッチを押してしまう。

 これはすんでのところで回避できるのだが、デルは本気だ。なにしろベトナムでも捕虜生活を経験して、アメリカに帰ってみればハメられてまた刑務所生活。でもミサイルのボタン押しちゃだめよ。このへんの無茶さ加減がやはりアルドリッチなんだろうなぁ。クライマックスでは直接人質になるアメリカ大統領(チャールズ・ダーニング)とのやりとりもあって、男同志のガチ勝負はさすがに見ごたえがある。

 最後は、そうならざる得なかったという終わり方だが、虚しくも悲しい結末。アルドリッチって、とにかく男の闘いを描くとともに、卑怯なやり口を嫌うという描き方をする人だから、ベトナム戦争を長引かせた政府を許せなかったんだろうなと思う。

 アルドリッチは、この映画の設定の1981年に『カリフォルニア・ドールズ』を撮って、その二年後に65歳で死去。それが遺作になってしまう。最後に撮ったのが男の闘いというよりは女子プロレスだったというのは面白い。しかもこれがアルドリッチの映画の中でも、とりわけ面白い一本なのだからわからないものだ。

5月15日記

静かなお喋り 5月14日

静かなお喋り

このコーナーの表紙に戻る

トップ アイコンふりだしに戻る
直線上に配置