風雲電影院

ハルチカ

2017年3月19日
TOHOシネマズ日本橋

 私は高校に入ったとき、クラブ活動に水泳部を選んだ。ところが三ヶ月やった時点で、遊びに行った先で怪我をしてしまい入院。手術をして退院してからも、家で安静にしていなければならないほどの重症だった。その年の夏休みは、一歩も家から外に出なかった。おかげで事故の後遺症があったのと、体力がすっかり落ちてしまっていて、これ以上運動部は無理だと判断して退部してしまった。
 そのあとは別にこれといったクラブにも属さず、ブラブラしていた。あのころは、学校から帰ると、家で本を読んでいたりした。
 あれは2年も終わりごろのこと。クラスで親しかった友人がブラスバンド部員で、当時二年生の部員が少なくて、三年生が卒業してしまうと部員が足りなくなってしまうと言われて、楽器などまったく経験がなかったが、ちょっとやってみようかなと思って入部した。だから、ブラバン経験は、ほとんど一年間程度しかない。しかしおかげで音楽というものを理解するのに、とても役に立ったことは事実で、あのときブラスバンド部に入ってよかったなぁと今でもつくづく思っている。もっとも、短期間の経験しかしていないし、パートも打楽器→トロンボーン→チューバと、それぞれ少しずつしかやっていない。もともと楽器は私には向かないらしく、何をやっても上達しなかった。でもあのときのことは、嫌なこともたくさんあったけれど、みんなで音楽を演奏することって、ほんとに楽しかった。

 『ハルチカ』は、そのポスターを見ただけでは、まったく観に行く気が起きなかったが、予告編を観て、これが高校の吹奏楽部の話だと知って、観に行くことに決めた。去年の『オケ老人』のときも、映画はあまり評判にならなかったけれど、私はこの手のテーマは好きなんだな。『オケ老人』、よかったけれどなぁ。ブラバンを経験していると、やはりなんか血が騒ぐんですわ。

 前半は高校に入った主人公のチカが、吹奏楽部に入ろうとマイフルートまで購入して張り切っていたのが、吹奏楽部は部員がいなくて廃部寸前。新しく顧問になってくれてもいいという先生から、9人集めればブラスバンドはできると言われて、部員集めに奔走する。これが前半の一時間。この部分は正直、あまり面白いとも思えなかった。
 9人と言っても、クラリネット、サックス、フルート、オーボエの木管4.
トランペット、ホルン、トロンボーン、チューバの金管4。それに打楽器で9。これじゃあブラスバンドはできんでしょ。もっとも、梅津和時らがやっている、ちびブラスは、木管2、トロンボーン、チューバの4人で成立しているから、できないことじゃないけれど、高校生あたりのレベルじゃ無理。それにオーボエ入れるなら、ブラバンだったらクラリネットもうひとり入れて、曲によってはバスクラリネットを吹かした方がよさそうな気がするのだけど。

 努力の末9人集まって、めでたしめでたしなのだけど、そこから一気に部員が増えて、ちゃんとした吹奏楽部になってしまったときには、ずっこけそうになった。アハハハハ。
 ここから、映画は突然面白くなりだす。この映画のヒロイン、チカちゃんは、フルートを吹きたいという一心で入部したのだけれど、フルートを一度も吹いたことがないという初心者。周りの人に比べて、まったく吹けてないことが発覚する。顧問の先生は、自分が作曲した曲で、高校の吹奏楽部の大会に出場することを決める。この曲にはフルートのソロが入る部分があって、その部分がチカにはどうしても吹けない。みんなで演奏していても、その部分が来ると、チカが詰まってしまい、練習が止まってしまう。指揮をする顧問の先生は、チカに個人練習をするように命じ出て行ってしまう。チカと顧問がいなくなった練習場では残った部員による言い争いが起こる。この部分が長回しのワンカット撮影。大会が迫ってきていて、みんなもう少し練習時間を長くしようという者が現れたり、「私はやらない」とか、誰の教え方が悪いとか。喧々囂々。これね〜、おそらくブラスバンドだけでなく、どのクラブ活動でも似たり寄ったりなんだろうけれど、あるんですよね〜、こういうこと。自分のブラスバンド部時代を思い出してしまった。
 ただ、荒を言えば、おかしなことは結構あって、フルートのソロの部分が難しくて吹けないなら、もう少し楽な譜面に書き直してもらうというのは当然の事だと思うけどな〜。なにしろ高校生のブラスバンドなんだから。大会の課題曲というわけでもないし。チカがいつもこの部分で躓くんで、どんな譜面なのか最初はわからなかったのだけど、正しいソロをあとから聴いて、「こりゃ、難しいわ」と思いましたね。あんな譜面、音大生でもなきゃ無理でしょ。それをまだロングトーンも覚束ない初心者に拭かせようというのが無理。しかもチカの隣には、経験の長いピッコロ奏者がいる。ピッコロはフルートの小さいやつで、基本的にフルートと同じ。あの部分だけ、チカの代わりにフルートを吹いてやればいいだけの話。映画の中でも、そう持ち出すと、「それじゃあピッコロはどうなるんだ」と言われてしまう。でもあのソロの前後、ピッコロって音出てたかな〜。いらないと思うな〜。
 まっ、そういうツッコミどころはあるけれど、やっぱり面白いんですよ、この映画。

 で、この顧問の先生が作曲した曲というのが実にいい曲で、耳に残る。大会があって、そのあたのから台詞がほとんど無くなってしまうのが、またいい。このあとの展開は書かないが、音楽って言葉じゃないんだ。そして音楽って、上手い下手じゃなくて楽しいものなんだということを思い出させてくれる。実にいい映画だったな〜。

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