風雲電影院

太平洋の地獄(Hell in the Pacific)

2015年6月22日
三日月座BaseKOMシネマ倶楽部

 1968年暮に正月映画として公開されて、私も観に行ったのを憶えている。なにもこんな内容の映画を正月映画として公開しなくてもいいのにと思われそうだが、あのころの三船敏郎は日本人にとってヒーローだった。その三船がアメリカ映画に出て堂々の主役を張るというのだから、当時の日本は沸いたわけですよ。といってもこの映画は登場人物がふたりしか出てこないわけだし、しかもその相手役がリー・マーヴィン。これが微妙。リー・マーヴィンは一応名が売れていたけれど大スターという位置づけじゃなかった。舞台は太平洋の無人島だし、なんだかハリウッドの華やかなイメージとはちょっと違うんだなぁ。

 監督がジョン・ブアマン。この一本前がリー・マーヴィン主演で撮った、リチャード・スターク(ドナルド・E・ウエストレイク)の悪党パーカー・シリーズの映画化『ポイント・ブランク/殺しの分け前』。なにしろこのジョン・ブアマンって人、面白い映画を作るくせに、いまいちマイナー。ちょっと癖のある映画を作るもんだから、どれもミョーな出来栄えになる。

 公開当時に観たときには、三船敏郎主演のアメリカ映画だっていうんで、気合が入って観に行ったのだけど、観終って「なんだかな〜」という感じになってまい、当時の映画評もイマイチ褒めてなかったりで、二度と観ることもないだろうと思っていた。それがこうして観直してみると、これは変な映画だけど、なかなか面白かった。104分だけど、もっと短く感じた。ストーリーは複雑じゃないし台詞もほとんどないんだけどね。

 海軍の軍人である三船敏郎が、おそらく魚雷にでもやられて乗っていた船が沈没でもしたんだろう。流されて無人島に漂着して生活している。戦後何十年かたって、元日本兵が南の島で終戦を知らずに生きていたなんてニュースは、このあとに1972年に横井庄一。1974年に小野田寛郎が見つかって帰って来たということもあって、先をいっていたともいえるだろう。

 そこへ戦闘機に乗って墜落したリー・マーヴィンも偶然にこの無人島にやってくる。無人島暮らしなんて、いわばホームレスですよ。いや、ホームレス以下でしょ。段ボールもないから段ボールハウスも作れない。第一、段ボールがあったって、高速道路の下みたいな場所があるわけないんだから、スコール一発くれば段ボールハウスなんて崩壊しちゃう。食糧だって、炊き出しがあるわけじゃなし自給自足。目の前の海から魚や貝を捕獲するか、山の木の実を採って来るしかない。

 そんな過酷な状況なのに、ふたりは共存しようとしないんですね。言葉も通じないこともあって、ホームレス同士の陣取り合戦みたいなことやってる。しかも一応敵同士だからお互いを捕虜にしようとする。それがあるとき、捕虜にすると相手は何もしないで済むというのに気が付く。バカバカしくなって「働け!」には笑ってしまった。今の時代のホームレスだって何もしないで寝てたら死んじゃう。生きていくにはそれなりの行動をしなくちゃならない。

 その延長で、このままこの島にいたんじゃ死んじゃうだろうことに気が付く。それで何とか脱出しようと筏を作って海に出ようとする。ところが筏の作り方ひとつにもお互いのこだわりがあって喧嘩になるというところも面白い。でもその先、筏を組んで行くシーンがバッサリとないのが、やや物足れないかな。そして大海原に出ていくシーンは感動的ですな。

 そのあと、いかにもブアマンらしい終わり方が待っているのだけれど、言葉の壁というのだろうか、お互いの言語がわからないためにコミュニケーションが取れないという悲劇。考えさせられるものがありますねぇ。ジョン・プアマンはこのあと『脱出』という映画を撮るのだけど、これも川下りに出た都会人が現地の人とのコミュニケーションがうまく取れなかった悲劇と考えると、同じようなテーマが流れていると言えるかもしれない。

 現実に、南の島のジャングルで何十年も生き延びた日本兵。今の日本人で、ホームレスよりも過酷なサバイバル生活ができる人って何人いるだろう?

お月23日記

静かなお喋り 6月22日

静かなお喋り

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