風雲電影院

アイドルを探せ(Cherchez L'idole)

2015年2月23日
三日月座BaseKOMシネマ倶楽部

 1963年のフランス映画。日本での公開は翌1964年。当時小学生だった私は、この映画を観ていなかったし、その後もまったく興味が無かったと言っていい。しかし今回観たら、これが実に楽しい映画だったんですねぇ。

 もちろんシルヴィ・ヴァルタンのヒット曲『アイドルを探せ』は知っていて、『アイドルを探せ』と聞くと、すぐにあのメロディーは頭に浮かんでくる。ただ、ややこしいのは、シルヴィ・ヴァルタンの『アイドルを探せ』という曲は原題が La Plus Bella Pour Aller Danser といって、映画『アイドルを探せ』の中の挿入歌のひとつでしかない。それをどうやら日本のレコード会社だかなんだかが、あたかも『アイドルを探せ』の主題歌のように、映画のタイトルを付けて発売しちゃったものだから、おかしなことになってしまった。

 シルヴィ・ヴァルタンの『アイドルを探せ』La Plus Bella Pour Aller Danser は日本語にするならば、「舞踏会で一番美しいのは私」という意味らしい。この映画でシルヴィ・ヴァルタンがこの曲を歌うシーンがyou tube にそのままあるから興味のある方はご覧になって欲しい。若い女の子が舞踏会に自慢のドレスで現れて、今夜この場で一番きれいなのは私よと、ちょっと傲慢なほどに得意げになっている歌。若さって言うんですかね、若い時って、そのくらいの自信があるのかもしれないなって気持ちにさせられる曲。シルヴィ・ヴァルタンがニコニコ笑うわけじゃなく、ちょっとツンとして歌うあたりが、この曲をうまく解釈してるなと思う。だからこれを観た後に、日本の●尾●●が、日本語の歌詞(元の歌詞とぜんぜん違うじゃん)で笑顔を浮かべながら歌っているのを観るとガッカリする。

 それで、シルヴィ・ヴァルタンの歌がヒットして、この映画はシルヴィ・ヴァルタン主演の映画かと誤解されそうなのだけれど、シルヴィ・ヴァルタンの出演シーンは、その歌を歌うシーンとその前後にちょっとだけ。この映画が制作された経緯は知らないけれど、どうやら当時のフレンチポップを総動員して音楽映画として楽しく見せようと企画されたんじゃないかという気がする。歌手はたくさん出したいけれど演技力は心配。そこで、歌手たちは歌手本人の役にして、しかも演技力があまり無さそうな人は、極力台詞を少なくしようということだったのかもしれない。

 上手いなぁと思うのは、そのストーリー。ミレーヌ・ドモンジョ(本人役で出演)の宝石を盗んだ男が、その宝石を楽器店のセミアコースティックギターの中に隠す。ねっ、上手いでしょ。セミアコならボディに穴が開いているから、咄嗟にスッと入れられるわけですよ。そのあと男は改心してその宝石を持ち主に返そうとして再び楽器店に行ってみると、例のアコギはもう売れてしまっている。しかも同じ型のものは五本仕入れていて、五本とも有名な歌手がそれぞれ買って行ったあとだった。こうして男とドモンジョのメイド、それにそのことを知った二人組の若い女が、ギターを買って行った歌手を訪ね歩き、こっそり宝石を手に入れようとするというドタバタ喜劇。うまいなぁ。これで歌手は出せるは喜劇として楽しめるは一石二鳥のストーリー。宝石がらみだとリチャード・レスターが撮ったビートルズの『ヘルプ!』を思い出すけれど、こちらの方が先でしょ。それになんとなくドナルド・E・ウェストレイクのドートマンダー・シリーズのことがチラリと頭に浮かんだり。タイトルどおり宝石というよりはアイドルを探すわけだけど、このころのアイドルって言葉の使われ方は、今とはちっょとニュアンスが違っていたかもね。なにしろシャルル・アズナブールもアイドルという形でで来るんだから。おそらくこの映画のときはもう40歳近かったはず。

 シルヴィ・ヴァルタンくらいは知っているけれど、当時のフレンチポップってあまり詳しくは知らない。それこそ聴いたことも無いような歌手もたくさん出てくる。一曲まるまる流れる(全て口パクだから、バックで小編成のバンドが演奏しているシーンでもストリングスが入っていたりする)歌手もいるけれど、曲の一部だけ歌っている歌手もいる。このころのフレンチポップに詳しい人(そんな人、ほとんどいないだろうけど)が観たら、涙ものかも知れない。

 いろいろドタバタがあって、前の4本のギターはシロで、残るはシャルル・アズナブールが買ったものとなる。シャルル・アズナブールと言えば、この映画の前にも『ピアニストを撃て』に出ているし、ほかにも何本も映画には出ている人。このアズナブールがトリという感じで、いい芝居をしている。アズナブールが、そのギターをちょっとだけ弾くシーンもあるのだけれど、これは本当に弾いているように思える。アズナブールがギターを弾いているところなんて初めて観た。物語としてもトリなのだけれど、このあとアズナブールの歌で映画は終わる。これがもうねぇ、さすが貫録と言うか、今までのものか゜全て吹き飛んでしまうくらいに圧巻。ここで歌うのが『想い出の瞳』Et Pourtant ですよ! もう、「やられた!」という気持ち。この曲は訳詞が流れていくのを見ながら聴いていると胸に詰まるものがある。最後の最後でシャルル・アズナブールに持って行かれた。シャルル・アズナブールが歌っているシーンが小さくなっても歌声だけは残り、そこにこの映画での使用曲目がクレジットで流れていく。いいなぁ〜。

 このところ殺伐とした映画ばかり観ていたから、こういう映画ってホッとする。

2月24日記

静かなお喋り 2月23日

静かなお喋り

このコーナーの表紙に戻る

トップ アイコンふりだしに戻る
直線上に配置