人生スイッチ(Relatos Salvales) 2015年8月17日 ヒューマントラストシネマ有楽町 以前、『バカヤロー! 私、怒ってます』という日本のオムニバス映画が評判になって、シリーズで4本作られるほどのヒットになった。これは我慢を強いられた登場人物が、あるとき、今の言葉でいうとキレてしまったとき、結果的に物事がいい方に運んでいくといったエピソードで構成されていた。 こちらはアルゼンチンのダミアン・ジフロン脚本監督の、やはり6編からなるオムニバス映画。こちらもキレてしまった登場人物が起こすエピソードなのだが、やはりラテン系の人が作ると日本とは大きく違う。キレ方も凄いが、キレたことによっていい結果になるエピソードはほとんどない。地獄へまっしぐらだ。『バカヤロー! 私、怒ってます』の方を取るか『人生スイッチ』の方を取るか、それは国民性や、その人の性格にもよるだろうが、映画として観ていて、私は『人生スイッチ』の方が面白かった。 例えば第3話『エンスト』。前をノロノロ走っているポンコツ車がいて、後ろのアウディーの新車に乗っている男はイライラ。追い抜きざまに悪態を吐いてすっ飛ばしていく。しばらく行ったところでアウディーの後輪がパンク。あまり自動車の整備には慣れていない男はタイヤ交換するだけでも四苦八苦している。そこへ先ほどのポンコツ車がやってくる。どうもこの運転手はかなり怒っていてアウディーの運転手の方に近付いてくる・・・。なんとなくスピルバーグの『激突!』を思わせる話なのだが、もう二人の男が直接ぶつかり合う、すさまじい話。あまりに物凄いので思わず笑ってしまうくらい。 エピソードが進むに従って、だんだん込み入ったストーリーになって行くのだが、私は最初の方のエピソードの方がスッキリしていて好き。第1話『おかえし』が一番短くてシンプルで、最終話『ハッピー・ウエディング』が一番複雑。そういう意味では『おかえし』が一番面白いのだが、これだけでは映画にならないということなんだろう。もっともこのアイデアだけでパニックムービーが一本作れそうだが。そこへ行くと『ハッピー・ウエディング』はよくある話で、結婚披露宴の最中に、新郎が浮気していたのを新婦が知ってしまい大パニックというコントによくあるアイデア。それをラテン系の人がマジでやるもんだから、披露宴が修羅場と化す。こんな話、どういう落としどころにするんだろうと思っていると、やはりそれしかないかという結末。やはり正面切って人間ドラマを撮ろうとすると、こうなってしまうのだろう。その意味でも、私は人間ドラマが中心になった後の方のエピソードよりも、前半のアイデアだけで勝負したエピソードの方が好きということなんでしょうね。 8月18日記 静かなお喋り 8月17日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |