風雲電影院

人生の特等席(Trouble With The Curve)

2012年11月24日
楽天地シネマズ錦糸町

 クリント・イーストウッドが監督業を離れ、久し振りに俳優に専念している。それがいかにも楽しそうで、観ていて微笑みが浮かんでくる。

 今回はプロ野球のスカウトマンの話。スカウトマンとしての腕は一流と言われながらも、寄る年波には敵わないと思い始めているガス・ロベルが今回のクリント・イーストウッドの役どころ。
 目に問題を抱えていて、どうやら視野が一部欠けているらしい。クルマを運転中に左から来たクルマに気が付かずに事故を起こしてしまうシーンがある。おそらく緑内障だろう。これは私も緑内障をやって視野が一部欠けているから、見えていない部分があるというのは実感できる。緑内障は放っておくと失明の危険があるので、一刻も早く病院に行くべきだと思うが、そういう行動を起こそうとしない。忙しいだのなんだの言ってる場合じゃないと思うのだが。

 スカウトマンの世界も新旧交代の時期に来ているのか、若い世代が台頭してきている。
 同じチームのためにスカウトをやっているライバルがフィリップ・サンダース(マッシュー・リラード)。彼はデータ分析に堪能な人物。
 それと、肩を壊して現役を引退して、ガスとは別のチームのスカウトマンに転身をはかる、ジョニー(ジャスティン・ティンバーレイク)。

 これに、ガスの娘で弁護士のミッキー(エイミー・アダムス)が絡む。ガスはミッキーが6歳のときに妻を亡くしてしまう。その後、ガスは娘を親戚に預けたり、施設に入れたりで、自分で育児する事を放棄してしまって、今日まで至っている。そのことをミッキーは少々恨みに思っているところがある。ある日、ミッキーはスカウトのためにアメリカ中を歩き回っている父親に会いに行くことにする。そして、ガスがなぜ娘を手元から離したのかがわかる事になるのだが、それは観てのお楽しみ。なるほどという理由が用意されているが、それもこのあとネタバレで触れるつもりだが、「うーん」というところ。微妙な設定になってしまっているんだなあ。6歳ではなく、もう少し上の年齢になってからということならスッキリするのだが、後から語られるそういう理由なら6歳の時点の方が理屈はあっているのだが。
 ミッキーはガスと一緒のスカウトの旅に出て、過去を清算しようとする。

以下、結末にも触れます。ネタバレが困る方は、この先はご遠慮ください。

 これって、結局は、仕事ができる人間と、できない人間の話なんだ。

パソコンでのデータ分析に堪能なフィリップは、実際に選手を見に行くことなく、データだけで判断する。
 しかし、各チームが注目しているスラッガーは、その打撃力に大きな欠点をもっていることをガスは見抜いてしまう。
 ガスはチームに、この男をドラフトで指名するなと連絡する。また、同業者になったジョニーにも、あれは指名できないと伝える。
 ところが、データだけで判断するフィリップは、このスラッガーを見送るのはチームにとってマイナスだと考える。
 ガスとフィリップ両方から正反対の結論を提示されたオーナーは一位指名に、このスラッガーを指名する。
 スラッガーの欠点を見抜いたのはガスだけでなかった。娘のミッキーも同意見。
 さて、ドラフト会議当日。ガスが契約するチームが、このスラッガーを一位指名すると、怒ったのはジョニー。ガスが余所のチームが、このスラッガーの指名権を獲得しないように、「指名しない」とわざと嘘の情報を流したと思い込む。

 さて、この映画を、仕事ができる人間と、できない人間として捉えると、仕事ができない人間はフィリップ。データにばかり振り回されて、実際に選手をその目で見に行かなかったツケがラストで晒される形になる。もうひとり仕事ができない奴は、もちろんこのスラッガー。映画は彼を、威張ってばかりいる嫌な奴として描き出す。

 一方、仕事ができる人間の筆頭は、もちろん主人公のガス。彼は目の衰えを耳と経験でカバーし、このスラッガーの欠点に気付く。
 もうひとりがミッキー。彼女もこのスラッガーの欠点を見抜いてしまう。彼女は父の仕事で一緒に野球を見ていた経験から野球に詳しい。
 これはこの映画の設定を危うい形にしかねない。ミッキーが父顔と一緒にいたのは6歳まで。6歳の子供のころまでしか父親と一緒にいなかった娘が、選手の欠点を見抜く力を持ち合わせることができるのかどうか。仮に、父親の元から離れても、休みのときに一緒に父と野球を見まくって野球に強くなったか、父と離れても野球が好きで、野球に詳しかったとしても、相手の欠点を見抜くというのは高等技術。それができるのだうか?
 百歩譲って、ミッキーには父親の血が入っていて、こういうことに天才的だったとしても、それでは、ジョニーはどうなる。ピッチャーとして活躍して引退し、スカウトマンになったジョニーにはこの欠点が見抜けなかった。彼が仕事ができる人間なら、たちどころに、このスラッガーの欠点を自分の目で見抜いたろうし、現役時代もこんな相手なら軽く仕留められることができたはずだ。
 しかも、もっと悪いことに、ガスが指名しないと言ったので、自分が契約するチームにも、その旨を伝え、ガスのチームがこの男を一位指名したとなると、騙されたと思い込み急に怒り出す。彼も実は仕事ができない人間だ。
 さらにさらに悪いことには、ジョニーはミッキーと恋仲になりそうなところだったのに、これが原因で破局してしまう。ダメな奴だなあと思っていると、ラストであっさりミッキーと依りを戻す。おおーい、こんな奴と一緒になるなよー。こいつ仕事ができない奴だぞー。

 ラスト近く、突如、これがまた恐ろしく仕事のできる男が現れる。ミッキーがモーテルの庭でキャッチボールをしている男を発見する。野球場でピーナッツ売りをしていた男だ。この男が凄いボールを投げる。ミッキーはこの男を連れて父親のチームの練習場に連れて行く。ここで、一位指名したスラッガーと、無名のピッチャーが対決することになるのだが。結末は書かなくてもわかるだろう。

 ミッキーは父親に休暇を使って父親と過ごしている間に、仕事を別の弁護士に取られてしまう。が、これまたやっぱり、代った男が仕事のできない奴で、ミッキーに仕事が戻ってくる。

 かなりご都合主義な映画だ。仕事ができるのが、ガスとミッキーの親子と、無名のピッチャー。仕事ができないのが、フィリップ、一位指名のスラッガー、ミッキーの代理で仕事に入った弁護士。そしてジョニーと、色分けがはっきりしすぎている。

 なんだか観終って、面白いと思ったけれども軽い失望感もあった。勧善懲悪みたいな映画にも思えてくる。それはクリント・イーストウッドが若いころ散々出ていた映画に近い。でも、そういう一種のヒーローものを気持ちよさそうに演じているイーストウッドも、どこか楽しんでいるようにも思えてくる。だから、「まあ、いいか」といったところ。
 これはあくまで、クリント・イーストウッド主演の映画なんだから。

 ラストに流れるブルースが印象的。

11月28日記

静かなお喋り 11月24日

静かなお喋り

このコーナーの表紙に戻る

トップ アイコンふりだしに戻る
直線上に配置