葛城事件 2016年7月12日 新宿バルト9 劇団 The Shampoo Hat の赤堀雅秋が、『その夜の侍』に続いて。劇団の芝居を映画化したもの。『その夜の侍』の衝撃が忘れられずに観に行ったが、こちらはそれ以上だった。 ある家族の物語。もちろんホンワカしたホームドラマなんていうものじゃない。 三浦友和の父親は、親から継いだ荒物屋をまだやっている。もう今時荒物屋なんていう商売は、この世から無くなっているくらいに儲からないだろうが、それでも、それ以外の仕事に変えようという気がない。今までどうやって家族を支えていたのかわからない。でも昔から、理想の家族を作るんだという夢を持っている。ところが現実は、自分の描いた家族とはかけ離れてしまっている。 長男は就職して、家を出て家庭を持っているものの、父親と同じく理想とプライドばかりが高く、リストラにあっても妻にそのことを告げることができず、毎日、会社に行くふりをして、公園で暇を潰すしかない。 次男は30歳近くなっても仕事をせずにニート生活。自分がこうなっているのも社会のせいだと思っている。 南果歩は自己チューの主婦。精神も病んでいるよう。 この家族に、さらに次男の起こした事件に興味を持って近づいてくる偽善的なにおいプンプンの女、田中麗奈。 もう誰一人として感情移入できない、嫌な奴ばかりしか出てこない。しかしこのダメ人間たちに目が離せなくなってしまい、「どうなってしまうのだろう」と観続けてしまうのは、ポツドールの三浦大輔の芝居に似ている。 ただ、三浦大輔の、溜まっていたものがついにこれ以上耐えきれなくなってしまって爆発してしまうのと比べると、その爆発は主に家庭内部に向かわず、自分のなかや、関係のない社会に向かって爆発していってしまう。 家族だとはいえ、所詮人間は個人。自分の思うようには動いたり育ったりはしてくれない。溜め込んでしまった負のエネルギーのやり場が家族ではない別の場所に向かう時、悲劇は起こってしまう。唯一、心のよりどころだった家族から自分を否定された時、人間は全てを失ってしまうのかもしれない。 三浦友和、いい役者になったなぁ。そして長男の妻の役で出た内田慈、あいかわらず、うまいところを持っていく。 7月13日記 静かなお喋り 7月12日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |