風雲電影院

県警対組織暴力

2015年2月2日
三日月座BaseKOMシネマ倶楽部

 1975年作品。公開当時映画館で観て、「こいつぁ面白い」と思った。タイトルから想像していたのは警察と暴力団との闘いの話だと思い込んでいたのだが、ちょっと意味合いが違っていた。マル暴の刑事がみんなヤクザと区別つかないなんていう描写は、沢田幸弘の『反逆のメロディー』での青木義朗の刑事でも行われていたが、どうやら現実も本当にそうらしい。しかしこの『県警対組織暴力』の菅原文太の場合は、その上を行っている。

 さすが深作欣二、凄い映画だよなぁと思っていたのだが、数年前にDVDで観直してみたときには、ちょっと印象が変わっていた。「なんだか殺伐とした映画だな」と感じてしまった。いや、実に面白い映画であることは変わらないのだが。それは今回も観たときも同じ。面白いんだけど観終って、な〜んだかカタルシスが得られない。

 あとから、Wikipedia を見てみたら、この映画が企画されたモトというのが、『山口組三代目』が当たって東映が儲かったのはいいが、売り上げの一部が山口組に流れたんじゃないかと勘ぐった警察によって、東映本社と俊藤浩慈の自宅にガサ入れをかけられ、岡田茂社長が警察に出頭命令をかけられたことから、頭に来て岡田社長が『県警対組織暴力』という映画のタイトルを思いつき、社長の鶴の一声で製作が決まったとある。なるほど、とういう裏事情があったのか。

 これで少し飲み込めてきた。とにかくこれ、いい人間が一人も出てこない。ヤクザはもちろん、刑事は汚職警官ばっかりだし、政治家もワル。警察の規律を正そうとする送り込まれてくるエリートも、結局は最後まで観ると、大手企業へ天下りする人物に描かれている。もう誰にも肩入れ出来ない殺伐とした話。女性は出てきてもセックスの対象でしかないという、これまた殺伐のダブルパンチ。

 ラスト近く、チンピラの家が襲われ狭い部屋の中でのた打ち回るシーンがあるが、そのシーンではテレビが点いていて梓みちよの『こんにちは赤ちゃん』が流れているというのにしたって、「えーっ、ここまでやる!?」という感じだし。

 この映画にも、笠原和夫の書いた名台詞がたくさん出てくるが、中でも最初に観たときから気になっていたのが、これ。
 「あんころはのぉ、上は天皇陛下から下は赤ん坊まで、横流しの闇米くろうて生きとったたんでぇ。あんたもその米で育ったんじゃろうが。おお、きれいずらして法の番人じゃなんじゃっていうてんじゃったら、18年前、われが犯した罪、清算してからうまい飯くうてみせりぁ」
 これもねぇ、いいんだけど、ちょっと今聴くと、う〜ん、なんだかなぁ。確かに凄い台詞だけどね。

 ラストシーンも、あれ、どうしても入れる必要があったんだろうけどね。もうすべてを断罪したかったのかも。でもだとしたら梅宮辰夫のエリートは、あのままでいいのかい? 

 う〜ん、凄い映画なんだけど、もうこれ以上観なくてもいいかな。不思議ともう観たくなくなってきた。

2月3日記

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