風雲電影院

北国の帝王(Emperor Of The North Pole)

2012年7月30日三日月座BaseKOMシネマ倶楽部にて。

 1973年作品。公開当時、名画座を追いかけて、おそらく二回観ている。それ以来だから、30数年ぶりに観たんだと思う。

 「人間、外見じゃない」とは言うが、そりゃあ絶対にキムタクみたいなイケメンに生まれて来たかった。もうスタート地点で人生は違ってしまっている事に、思春期になって気が付くわけだが、「けっ! 女になんかモテなくてもいいや」という気にさせる男臭い映画というものが世の中には存在するとしたら、この『北国の帝王』は最右翼だろう。

 主演がリー・マーヴィンとアーネスト・ボーグナイン。もともと美形とは言い難い容姿の二人だが、よくぞこの二人で映画を作ろうとしたものだという事にまず感心する。まあ男臭い映画を撮らしたら定評のあるロバート・アルドリッチとはいえ、こんなにゴツい男だけというのは珍しい。『ロンゲスト・ヤード』も撮っているが、あれとどっちこっち。汚さからいったらやっぱり『北国の帝王』だろう。両作とも女性がまったくと言っていいほど物語に絡んで来ないのも同じ。

 列車にタダ乗りして移動しているホーボーのエース・ナンバーワン(リー・マーヴィン)と、タダ乗りは許さないと、見つけたら殺してやろうと狙っている車掌シャック(アーネスト・ボーグナイン)の闘い。それに新米ホーボーのシガレット(キース・キャラダイン)が絡むのだが、これは二人の対決を際立たせるための存在にすぎず、主眼はやっぱりリー・マーヴィンとアーネスト・ボーグナイン。どこか無表情で危ない香りを放っているリー・マーヴィンと、濃すぎる顔立ちで表情をむき出しにするアーネスト・ボーグナイン。この対比が実現したことによって傑作になり得た映画でもあると思う。

 とにかく善悪なんて、まったく関係ない映画。こういうのもまた珍しい。そりゃあ無賃乗車は悪い。また一方、だからといって無賃乗車ごときで殺す事もいとわない車掌というのも悪い。観ていて、どっちもどっちなんだよなあと思わすのが上手い。最後の対決でどっちが勝とうが、それはそれでいいなんて、ちょっとプロレスみたいではないか。うーん、違うか。

 おそらくシャックとしてもホーボーは家の中に侵入したゴキブリくらいに考えているのだろうし、エース・ナンバーワンにしてみれば、その名を賭けたプライド。ばかばかしいったら、こんなばかばかしい闘いは無い。もう最後は意地の張り合いみたいなもの。なにもこんなことに意地を張らなくてもと思うのだが、これが男の世界なんだよなあ。わからないならわからなくて結構。女は引っ込んでろ!

 リー・マーヴィンもアーネスト・ボーグナインも監督のロバート・アルドリッチも、もうこの世の人ではない。もう二度とこんな映画は作られる事はなさそうだ。そういえば、ボーグナインの相棒みたいな役でチャールズ・タイナーが出ている。この内向的で、なにかよからぬ事を考えている小心者というキャラを演らせたら抜群の存在感のある役者さん。『ロンゲスト・ヤード』にも出ていたっけ。ウィキペディアを見ても、最近は映画に出ていないようなので、ひょっとしたらもうお亡くなりになったのかなあ。1925年生まれだそうだから、生きているとしたら87歳くらいになっているはず。

 イケメン俳優の映画はこれからも量産されていくんだろうが、こういう、むさい「男」の映画は、もう出て来ないのかもしれない。でもいいや。私には『北国の帝王』があるんだから。

7月31日記

静かなお喋り 7月30日

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