風雲電影院

恋する惑星(Chungking Express 重慶森林)

2014年8月26日
WOWOW放映録画

 1994年、言わずと知れたウォン・カーウァイ監督の傑作。劇場で観て、そのあとビデオで観たから、これが3回目。もう圧倒的に高評価されているし、今更私が何か書くほどの事は何もないのだが、せっかく久し振りに観たのだから、今回感じた事をちょっとだけ書いておこうか。

 この映画で、突然のごとく目にすることになった金城武は新鮮だった。芝居は上手いんだか下手なんだかよくわからないのだが、今までの役者にない不思議な存在感がある。中国語、広東語、日本語、英語ができるというのも武器。メイという女性に振られたばかりで、5月1日賞味期限のバイナップルの缶詰を30個買い集めている。メイが戻ってきてくれたらという願いも叶わず、賞味期限の1日前に、30個のパイン缶をすべて平らげてしまう。そして今まで知り合った女の子にかたっぱしから電話をかけまくる。広東語で、日本語で。その日本語がやけに印象的だったので、おそらく日本でも人気が出たんだろう。

 電話した相手全員に振られ、やけになってバーで飲んでいて、次に入ってきた女性を好きになろうと勝手なことを考える。そこに入って来たのが謎の女ブリジット・リン。彼はこの女性を口説いてホテルへ連れ込む。しかし、女はコート姿のまま眠り込んでしまう。そこに金城武のモノローグが入る。どうやら彼は眠り込んでしまったブリジット・リンのそばで、古い映画をテレビで2本観て、ルームサービスを取ってサラダを4皿食べたらしい。しかもライドポテトの大盛りをムシャムシャ食べながら、さらにテレビを観続ける。パイナップルの缶詰30缶食べた後で、まだその食欲。若いんですね。そして夜が明け、彼はブリジット・リンに何もせずに、ホテルから出ていく。なぜか、靴を履いたまま寝てしまうと身体によくないからと、ブリジット・リンの靴を脱がしてあげて。でも、そんなら朝になる前に脱がせてあげなよ。

 外は雨。金城武はグラウンドを全力疾走する。「身体の水分をすべて蒸発させて涙を出ないようにするため」って、カッコよすぎ。そこにポケベルが鳴る。見てみると「誕生日おめでとう」。ポケベルですよ、ポケベル。まだそんな時代だったんだよなぁ。

 フェイスブックをやっていると、フェイスブックに登録してある友達の誕生日が近くなると、「お祝いのメッセージを送りましょう」という連絡が来る。最初のうちは、よく誕生日になった相手にメッセージを送っていたのだが、だんだん面倒になって来た。そりゃあ、確かにこんなメッセージ貰ったらうれしいけれど、なんの意味があるんだろうと思って送らなくなってしまった。でも、このポケベルでのたった一言のメッセージ「誕生日おめでとう」は効くなぁ。発信者はおそらくブリジット・リン。どう考えたってね、ブリジット・リンと金城武じゃ、恋人として釣り合わない。ブリジット・リンの謎の女は、きっと寝たふりしてたんだろうなぁ。それに犯罪に手を染めているブリジット・リンは、金城武が刑事だってこと気づいていたに違いないんだよなぁ。

 ご存じのように、この映画は2本の短編と言うか中編で構成されている。金城武とフェイ・ウォンがすれ違うところで、話が切り替わる。撮影もアンドリュー・ラウからクリストファー・ドイルにバトンタッチ。手持ちカメラでめまぐるしい画像が流れたあとは、クリストファー・ドイルの流麗なカメラへという流れもいい。

 ほとんど演技経験のない金城武と、ベテランのブリジット・リンという組み合わせは、次の本来は歌手のフェイ・ウォンと、これまたベテラン、トニー・レオンという組み合わせに継承される。このフェイ・ウォンがこれまた役者ではおそらくこんな演技は出来ないだろうという新鮮な芝居を見せてくれる。デリカショップの店員役。お客さんでやってくるトニー・レオンを好きになるのに、気持ちを素直に現せない。トニー・レオンの顔をキチンと見て話すこともできないといった性格。店員でも、接客するより店の掃除をしている方が好きっていう変わり者。ママス&ハパパスの『夢のカルフォルニア』が大好きで、いつも大音量でこのCDを聴いている。ある経緯からトニー・レオンの部屋の鍵を手に入れ、留守中に忍び込み、部屋の掃除や洗濯を始める。それが、いつしかエスカレートして、部屋を模様替えしていってしまう。トニー・レオンはてっきりこのことを、飛行機のCAをやっている恋人の仕業と思い込んでいるらしい。しかし、その恋人はもう彼の元から去って行ってしまっていた。

 鈍感なトニー・レオンでもやがて、毎日留守中にやってきているのが消えて行った恋人では無くて、フェイ・ウォンだと気が付く。気が付けよ、お前は警官だろ! ようやくトニー・レオンはフェイ・ウォンをデートに誘う。待ち合わせは[カルフォルニア]という喫茶店。ところがその日は雨。気が変わったフェイ・ウォンは、本当のアメリカのカルフォルニアへ旅立ってしまう。そして一年後・・・。なんという小粋なラスト。

 この2つの中編がいいのは、ちょうど面白い短編小説を読んだ時のよう。オチというか幕切れの鮮やかさは、こういう短い作品なればこそだ。

 やっぱり、いいねえ、『恋する惑星』。Blu-ray 買おうかな。

8月27日記

付記

 これを書き終えてから、トニー・レオンとフェイ・ウォンの部分って、ようするにストーカーの話じゃないかと気が付いた。我ながら鈍いのだが。

 この映画が公開された当時って、まだ日本ではストーカーっていう言葉はそれほど一般的でなかった気がする。ストーカーという言葉がよく使われるようになったのは、1999年の桶川ストーカー殺人事件。あれからだっのではないだろうか?

 この映画を初めて観たときに、こんな素敵な女の子が、知らないうちに私の部屋に入ってきて掃除したり洗濯してくれたりしたらいいだろうなぁくらいにしか考えてなかった。でもよく考えると気持ち悪い話だよね。これがたまたま素敵な女性だったからよかったものの。性格も悪いブスだったら堪らんぞ。

 しかも、これ、男と女が逆だったらどうだったろう。たとえば男が女の部屋にこっそり入り込んで下着を洗濯する話だったら、変態ポルノにしかならない。女性が水商売の女だっら、ヒモの話になっていきそうだし。

 美男美女同士は得ですな。こんな話でも画になる。変態っぽかったり、安っぽかったりにはならない。

9月2日記

静かなお喋り 8月26日

静かなお喋り

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