風雲電影院

この世界の片隅に

2016年12月2日
ユナイテッドシネマ豊洲

 私は基本的に戦争映画が好きになれない(と言っても、これまた例外が山ほどあるのだが)。小さなころ、クラスメイトたちがテレビの『コンバット』や、あのころ大画面で公開した『史上最大の作戦』に夢中になっているのを、なんでそんなに面白がるのだろうと思っていた。
 また日本の映画やドラマで太平洋戦争中の日本の軍隊や、一般市民の生活を描いたものも、あまり好きになれなかった。

 『この世界の片隅に』は、戦前、戦中、戦後を、広島で生まれ呉で過ごした女性の姿がアニメーションで描かれる。
 よく朝ドラでやってるパターンだよなと思ったのだが、朝ドラの場合、ヒロインは、過分にデフォルメされていて、徹底的に悲劇的な場合もあるが、たいていはどこかすっ飛んでいて陽気。それが戦争に巻き込まれて苦労するというのが定番。半年かけて描かれるから、いろいろな事件がヒロインに起こるが、くどいくらいわかりやすく丁寧に描かれる。
 ところが『この世界の片隅に』では、上映時間2時間ほどのなかで、実に様々な事件があり、それがどんどん続けて描かれるから、頭をフル回転させていないと置いて行かれる。私は完全には理解できていないところもあり、いつか改めてもう一度最初から観直してみたいと思っている。

 ヒロインのすずは、私にとって祖母よりも若く、母よりも年上といった世代。戦前の日本の古くからの因習に苦労し、戦争の影響をもろに被り、苦労したであろう人たちだ。ただそれは今の人間から見てのこと。当時の人たちはそれが当たり前の生活だと思っていたに違ない。

 すずは、何があっても、それを受け入れる。ほのかな恋心を抱いた相手でも、そのまま心を打ち明けず、縁談の話があった家に、当然のように嫁いでいく。それが当たり前のことと思っている。嫁ぎ先で嫌なことを言われても、そのことを受け入れる。今の人にはおよそ理解できないかもしれない。
 理不尽な事でも文句ひとつ言わない。戦争が始まって日本に旗色が悪くなり、毎日のように空襲があっても、そのうちに驚かなくなる。爆弾で重症(身体の一部を失ってしまう)を負っても、泣き叫ぶこともない。玉音放送が流れた後も、「一億総玉砕。最後まで戦うんじゃなかったのか」と呟く。

 実際に、戦争があったとき、日本の普通の国民たちは何を思っていたのか私には知りようもない。ただ私の両親から言葉少なく語られたことから想像すると、みんなその状況を受け入れるしかなかったということ。
 時代が時代だったとはいえ、あの頃の人は、淡々と状況を受け入れ、そういう生き方をしていだんろう。人権だとか自由だとかいう考え方が、日本国民に広がるのは、敗戦してアメリカの占領下になってからのこと。それまではそんなこと一般人は考えもしなかったんだろう。

 このアニメは声高に反戦を訴えたりするものではない。だだ静かに戦前と戦争中の日本人を描いたもの。あのころは、そういう時代だったんだということを、きれいで可愛い画のアニメで見せてくれる。そこから、二度と戦争はあってはならないという感情が自然と湧き上がってくる。

 今年は日本映画がとても元気だし、アニメでは、これ以上に大ヒットした『君の名は。』もあるが、私はどちらかというと『この世界の片隅に』の方を支持したい。

12月3日記

静かなお喋り 12月2日

静かなお喋り

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