風雲電影院

苦役列車

2012年7月27日丸の内TOEIAにて

 西村賢太の芥川賞受賞作の映画化。

 どこまでが実際にあったことなのか、自伝的な内容らしい。映画化に際し、原作には無い、前田敦子扮する少女を登場させたことにより、またまた実体験とは別のものになってしまっているようだが。

 原作は読んでないが、無頼派とでもいう作風の作家が芥川賞を受賞した。もっとも芥川賞作品なんてほとんど読んでないのだが。

 芥川賞を受賞するような作家って、こちらの勝手なイメージだが、いわゆる文学青年で、大学に行って勉強しながら、小説を書いて青春時代を過ごし、それなりの会社に入ってデスクワークなどをこなしながら収入を得て、コツコツと小説を書き続け、晴れて作家になりましたというのが多いのではないだろうか? そこへ行くと西村賢太という人は、そんなイメージとは真逆の人生を歩いてきた人らしい。

 とにかくこの主人公はクズみたいな人物。お笑い芸人キャプテン渡辺が語るクズ人間みたいな男。日雇い労働をして一日の日当を貰うと、ほとんど酒を飲んでしまい、残ったお金も余裕があると風俗に使ってしまう。当然のように家賃は払わない。どうしても金に困ると借りまくるが、これまた当然返さない。

 そんな主人公の唯一の趣味は読書。って、ここが唯一違っていて、まさに無頼派。古本屋でアルバイトしている女性に恋をするが、ほとんどセックスの相手としか認識していなかったりする。また、一緒に働く同じ歳の専門学校生と無理矢理友達になるが、これも相手がやがて呆れて離れて行ってしまう。

 映画は、恋人も友人も失った主人公の三年後の姿で終わる。何もかも失い、絶望の淵にある主人公が突然小説を書き始める。

 小説版のラストがどうなっているか読んでないし、こうでもしないと収まりがつかないのかもしれないが、「ふーん」と思ってしまう。これだと、クズ人間がどん底まで落ちて、一念発起して小説を書きまして、見事芥川賞を取り、作家になりました。ってな結末になってしまっているわけで、いいのかねえ、これで。

 また一方で、主人公の先輩にあたる存在としてマキタスポーツが出ていて、これもクズ人間に近いのだが、歌だけは上手いと豪語しいる存在。この人もその才能で立ち直りそうな予感のするラスト。

 そりゃねえ、現にどん底から芥川賞作家になってしまう人もいるんだから、世の中捨てたもんじゃないけど、世の中、そんな人ってほんのひと掴みみたいなもんなんじゃないの?

 今の世の中、仕事もなくて困っている人たくさんいるし、何も特別な才能を持っていない人もたくさんいる。

 それでも、お笑い芸人を目指すんだという人はいるけど、そんな希望すら無い人はもっといる。

 私なども何の才能もないけど、朝から晩まで、とにかくシャカリキになって働いてなんとか生きてきた人間もいる。結果、身体壊してちゃ意味ないけど。

 そんな事を思いながら観ていて、やや冷やかな目になってしまったラストだった。

7月28日記

静かなお喋り 7月27日

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