風雲電影院

カンフー・ジャングル(Kung Fu Jungle 一個人的武林)

2015年11月3日
新宿武蔵野館

 香港で、カンフーの達人ばかりが殺され、それもカンフーの技で倒されたらしい事件が連続して起こる。刑務所に入れられている、やはりカンフーの達人ハーハウ・モウ(ドニー・イェン)は、この犯人に心当たりがあるらしく、自分の身柄一時釈放を条件に、事件を追うことになる。

 ドニー・イェン主演、テディ・チャン監督とくれば、これはもう、あの傑作『孫文の義士団』のコンビ。観に行かないわけにはいかない。

 一応現代劇で、殺人事件が起こり、サスペンスものの形態を取っているが、カンフーでカンフーの達人が殺されたとなれば、これはもうどう考えたってカンフー映画。犯人は自分の強さを試すために強敵を倒し続けている人間だとしか考えられない。つまり現代サスペンス映画の衣を纏っているが、昔っからのカンフー映画に分類される映画だということは、観に来ているほとんどの人たちも承知の上のことだろう。

 犯人のフォン・ユィシウ(ワン・パオチャン)が、次々と殺人を犯す動機は、別に相手に恨みがあるというわけではないというのは、カンフー映画ファンなら納得するところだろうけれど、一般的には単なる異常者。それを承知で観るのが正しいカンフー映画の見方なのだろうが、やはり現代にするよりも、昔の物語にしたほうがよかったのではないかと思って観ていると、ついにクライマックス。ハーハウとフォンの一騎打ちのシーンになる。これがこの映画最大の見せ場、高速道路上での闘いになる。ひょっとするとこれがやりたかったのかもしれない。それはもう、13分7秒だという長いシーンで、その迫力たるや凄いもので、このシーンを観るだけでも価値がある。ふたりが闘っている横を自家用車が、大型トラックがビュンビュン走り抜けていく。道路に倒れた上をクルマが猛スピードで通過していったり、そりゃ無茶でしょ、と思わず笑ってしまったりもするのだけど、雌雄を決する覚悟の二人にはまったく気にならない様子。

 自分がこの世の中で一番のカンフーの使い手だと主張するために闘うなんていうのは、現代ものの映画の中ではアナクロとしか思えないが、エンドタイトル前に、これまで香港カンフー映画に関わった俳優、監督、スタッフなどの映像が次々と流れて、この映画が、カンフー映画へのオマージュで作られたのだと知ると、なんだか胸が詰まる思いがしてきた。私らの世代で香港映画を好きになった者の多くは、『燃えよドラゴン』からのカンフー映画に夢中になって、そのまま香港映画の虜になった。あれからもう40年以上の年月がたっている。これもなんだか感慨深い気持ちになる。気が付くと、いつのまにか香港映画からもカンフー・アクションは減ってしまった。思えば、今のアクション映画って、カットの繋ぎだけで見せる、実際の役者はあまり身体を動かさないで編集だけで見せる映画が多すぎる。そういう映画って、観ていてなんだか空しさを感じてしまうんだよなぁ。アクション映画の役者は、実際に身体が動かなきゃいけないし、アップばかりのカットを繋ぐだけの編集って、私には面白いと思えない。ドニー・イェンは香港カンフー映画の最後の砦になってしまったのだろうか?

11月4日記

静かなお喋り 11月3日

静かなお喋り

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