風雲電影院

狂ったバカンス(La Voglia matta)

2014年2月14日
WOWOW放映録画

 1962年イタリア映画。

 高校生くらいのとき、毎月雑誌『スクリーン』を購読していて、飽きずに見ていた。映画の情報を仕入れるのも目的だったが、やはり男優や女優のグラビア写真を見るのが楽しみだった。だからあのころの主演級の外国人俳優の名前と顔は、しっかりと頭に入っていた。今じゃ、どの映画に何という俳優が出ていたなんてことも忘れている場合が多い。

 カトリーヌ・スパークという女優さんにも憧れたっけ。きれいな人だなぁと思っていた。ところが、よく考えてみたら私、カトリーヌ・スパークの映画を一本も観てなかった。この『狂ったバカンス』とか『太陽の下の17歳』とか『輪舞』とか『女性上位時代』とか、タイトルだけは知っていたのだけれど、不思議と観る機会が無かった。

 雪の日の午後、外出するのも嫌なので、HDDレコーダーに録画した映画でも何か観ようと思った時、昨年の秋に録画したままになっていた『狂ったバカンス』を観ようと決めた。こんな雪の日に、夏の物語を観るのもいいんじゃないかなというのが理由もあった。それにカトリーヌ・スパークを観たいし。

 ウーゴ・トニャッツィのアントニオは、もう40歳を目前にしたバツイチのプレイボーイ。オープンカーで息子に会いに行く途中で、若者の一団と遭遇する。ガス欠なのでガソリンを分けてくれないかというのだが、その態度は礼儀作法がなってない。それでもガソリンを分けてやって別れるのだが、彼らはアントニオの車から大量のガソリンを抜き取ってしまっていた。今度はアントニオがガス欠を起こし、車を押してガソリンスタンドまで行くはめになる。
 するとこのガソリンスタンドには、さっきの一団がいて、食い逃げ騒ぎ。アントニオが逃げ遅れた若者を捕まえようとするが、その若者は打ち所が悪かったのか具合悪そうにしている。仕方なく、この若者を車に乗せ、彼の仲間のところへ。ところが彼らのいるコテージの近くまでくると、この若者は仮病だったことが判明。逃げる若者を追って車を走らせると、タイヤが砂浜に埋まってしまって動けなくなってしまう。

 こうして、この海岸で若者たちの一団と一緒に過ごすことになるのだが、さっさとこんな奴らと縁を切ればいいようなものの、中の一人フランチェスカ(カトリーヌ・スパーク)に心惹かれて、立ち去ることができなくなってしまう。このへんがいかにもイタリア映画だし、アントニオの設定をプレイボーイにした意味がわかる。これが絶妙なのは、39歳のアントニオにとって、16歳の少女というのは微妙なんだね。自分の息子はまだ幼いから、16歳と言うのはまったくの子供という感じはしない。でも本来なら成熟した女性と仲良くなろうとしているのが正常だったプレイボーイに、16歳の美少女フランチェスカは新鮮なものを覚えるんだろうな。そしてこのフランチェスカの無軌道な行動に、今まで付き合ってきた女性とは違う何かを感じたに違いない。75キロ以上のスピードは出したことが無いというアントニオの助手席に座ったフランチェスカは、アントニオが踏んでいるアクセルの上から足を重ねて強く踏み込む。体験したこともない猛スピードで車は疾走する。そのとき恐怖を感じながらもアントニオは血が滾ってしまうのを感じたことだろう。

 もうアントニオはフランチェスカに夢中になってしまって、彼らと一緒に海で泳いだり、バカ騒ぎをしたり。そして一生懸命フランチェスカに言い寄るのだけれど、フランチェスカは気のあるような態度を見せながらも、ほかの男ともイチャイチャ。なんとか気を引こうと、自分を若く見せたくて自慢のヒゲを剃ってしまったりする。でもねぇ、残念なことに、40歳目前の男は、やはり中年男でしかないんだねぇ。若い男たちは引き締まったいい身体をしているのに対して、アントニオにはもう身体中に肉が付いてしまっている。とても彼らには敵いやしない。それでもアントニオには、金だけはある。それを誇示するようなところもあるのだけど、若者たちは、そんなアントニオを利用するだけ利用して、仲間にするように見せかけて、実は弄んでいる。でも、アントニオにしてみれば目の間にいる美少女フランチェスカがものに出来そうで出来ないというもどかしさ。

 「今の若い者は」といつの時代も口にするアントニオは、きっとひととき若者に戻りたかったのかもしれない。無理して若ぶって。それでもやはり40男は40男なんだよなぁ。海岸にひとりポツンと残されたアントニオ。一方で「もう夏も終わっちゃうのね」と、つぶやいたかと思うと、またアッケラカンと若者たちのところに戻って行くフランチェスカ。

 75キロの速度を守りながら運転を続けるアントニオの横を、どんどんほかの車が抜いていくラストシーンが印象的。

 青春は帰って来ない。そんな物悲しくもある映画。そしてカトリーヌ・スパークが、ほんとに眩しい。高校生の頃にこれを観ていたら、私はどう感じていただろうか? 

 バカンスなんていう言葉も、あまり使わないような気がする。

2月15日記

静かなお喋り 2月14日

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