風雲電影院

凶悪

2013年11月17日
テアトル新宿

 韓国映画のガツンとくる衝撃に日本映画は負けてしまっていると感じていたのだが、園子温の『冷たい熱帯魚』を観て、うおー、日本映画もやるじゃんと思った。ただ、ラストが今一つだった感があって、惜しいなぁと思っていたが、ここについに、とんでもないガツンとくる映画が出てきた。

 ピエール瀧といえば、電気グルーヴの音楽は私にはあまりピンと来なくて、あまり聴いていない。シティ・ボーイズの舞台にゲストで出ていたのを憶えているくらいかなぁ。最近ではなんといって『あまちゃん』の寿司屋の大将役でしょ。あまり悪役をやる人ってイメージがないのだけれど、いやぁ、この『凶悪』のヤクザ役は怖いわぁ。冒頭から飛ばしまくってる。今でも東映がヤクザ映画作ってたら、この人かなり面白かったんじゃないかな。とにかく身体が大きいもの。そのスジの人御用達みたいな服着て、これがこんなに似合うとは思えなかったほど、すっかりハマってたし。刑務所に入ってからのシーンで、オールバックだったのを、短めのヘアスタイルにした途端に、さっぱりした顔つきになって、ああ改心したのかなと思ったら、山田孝之の記者が会いに行って、記事に出来そうにないと言った途端に暴れ出すところの怖い事、怖い事。この映画にはポツドールで危ない演技を見せている米村亮太朗も出ているが、その上を行っている気がする。

 前半、ちょっとモタモタした感じになるのが不満だったけれど、それもリリー・フランキーが出てきたところで一変する。いやぁー、このリリー・フランキーがまた恐ろしいわ。人の命を何とも思ってない人物を、こうも平然と演じられるとはねー。肝硬変と糖尿病で、身体が弱っている老人に無理矢理酒を飲ませるシーンは戦慄が走った。

 しかもこの映画の原作がノンフィクションなのだというのだから。もっと怖い。『冷たい熱帯魚』も実際にあった事件を基にしていたけれど、あっちはなんとなくブラックユーモアな感じがしていたのに、こっちはもう笑えないものなぁ。

 それは、この映画の根本にあるのが老人問題だということ。記者役の山田孝之には、認知症になってしまった母親と妻との同居生活という設定もある。妻はこの認知症になってしまった義母との生活に耐えられなくなっているわけだ。ピエール瀧とリリー・フランキーが共謀して殺す3人の人物もすべて老人。今の世の中、老人が邪魔な存在になってきている。年を取ると介護が必要だし、それが金銭的にも精神的にも家族の負担になってしまっている。「いっそ早く死んでくれないか」と思うほど追い込まれている家族は、今の日本には多いと思う。

 ラストで収監されているリリー・フランキーが山田孝之に対して行う仕草が、この映画の結論を見事に表している。
 誰かを「死んでくれればいいのに」と思ったことが誰にでもあるはずだ。そんな事思ったことはないと胸を張って言える人は何人いるだろうか?

11月18日記

静かなお喋り 11月17日

静かなお喋り

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