風雲電影院

リヴァイアサン(Leviathan)

2015年1月5日
早稲田松竹

 底引網漁船にカメラを据えて、ひたすら中の作業の様子を映し出したドキュメンタリー。しかし、これは今までのドキュメンタリーとは、いささか手法が異なる。別にこれで何かを主張しようとかいったことは一切ない。ナレーションの類もなければ、説明の文字も何もない。ただ、漁船の中を映し続けるだけ。しかもいったい何が映っているのかわからない映像もたくさんあって、それをボンヤリ観続けることになるのだが、87分、不思議と退屈しない。「これはどんな位置でどんなものを撮っているのだろう」と想像するという作業が、観るものに課せられる。

 いきなり目と耳に、ほとんど真っ暗な画像と大きな機械音が飛び込んでくる。画面の一部に、薄ぼんやりと光が見えて、゜あれ? これは夜の海の水面かな?」と思う。金属製の底引き網が巻き上げられる音。甲板に投げ出されるたくさんの魚。ほとんどが死んでいて、中には深海魚なのだろう、目が飛び出しているのもいる。まだ生きていて動いている元気なやつも。

 甲板で魚の解体も行われるっていうのは初めて観る光景。どうなんだろう、日本でもこんなことやっているなんてあまり聞いたことが無い。生き締めなんてことはやるけれど、解体しちゃうなんて考えられない。日本の場合、獲れた姿で水揚げされて市場に運ばれるのが普通だろうに。切り落とされた魚の頭が甲板に落ちている。やがて船の揺れで海水が甲板に入ってきて、魚の頭を波が攫って行く。これらの解体された魚の残骸は、また海の中で、ほかの魚の餌になるのだろう。これにあずかるのは海の中の生物だけではない。鳥が狙っている。カモメが甲板までやってきて、これを食べる。船が海を行くと、たくさんのカモメが船を追いかける。船から落とされた魚の残骸は当然カモメたちの餌になる。

 底引き網は貝類も引き上げてしまう。単なる貝殻はまた海に戻される。水中カメラで落ちてくる貝殻を捉えた映像。貝殻に混じってヒトデがたくさん落ちてくる。空から星が落ちてくるように。

 漁船の乗組員の姿も映し出されるが、別にインタビューが入るわけでもない。笑顔を見せる訳でもない。ただ作業をしているか、ジッとテレビを観ているだけ。これは人間を描くドキュメンタリーでさえない。とにかく、この漁船という狭い空間で行われていること見て、感じるだけ。

 こういう映像を見せられると、やはり自然界は弱肉強食なんだなと実感させられる。そして人間は確かに食べるためとはいえ、凄いことをやっていると思う。何よりショックだったのは甲板が屠殺場と化ししていること。それでは日本の漁船のやり方ならいいのかということは一概には言えない。結局、人類は海の生物を殺して生きているのは変わりないのだから。

1月6日記

静かなお喋り 1月5日

静かなお喋り

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