風雲電影院

ロンゲスト・ヤード(The Longest Yard)

2013年10月28日
三日月座BaseKOMシネマ倶楽部

 1974年作品。そうか、もう40年くらい前の作品になるのか。当時、試写会で観て、そのあとも名画座でかかると観に行っていたから、合計4回は観ていると思う。そのくらい好きな映画。テレビ放映でもビデオでも、あえて観なかったから、本当に久し振りに観たことになる。

 金持ちの女のヒモになっていたクルー(バート・レイノルズ)が、ほとほと嫌になって女を投げ飛ばして、ジンだかウォッカだかのオン・ザ・ロックを飲みながら、女から勝手に手切れ金代わりにといただいた車で街を突っ走るシーンはカー・アクションにあまり興味が無い私でも凄いと思う。 カー・ステレオから聞こえてくるのは、レイナード・スキナードの Saturday Night Special 。安く手に入る拳銃のことを歌ったこの曲を聴きながらパトカーを振り切るシーンの爽快な事。結局、港から海に車を沈めてしまう。このとき曲が水の中でくぐもった音になるのも芸が細かい。

 ロバート・アルドリッチ、50代半ば、脂が乗りきったころの作品。アルドリッチは西部劇から戦争映画からサスペンス映画まで、なんでもござれの職人監督。どのジャンルを撮らせても面白い映画を撮らせる。カー・アクションなんて、アルドリッチがそれまで撮ったものを観た記憶はないのだが、ちゃんと見せてしまう。これはきっとカット割りと編集が上手いんだと思う。

 そんなわけで、クルーは警察に捕まって刑務所送り。ところがクルーは元アメリカン・フットボールのスーパースターなものだから、ちょっとした騒ぎになる。囚人仲間からはバカにされる。ロック・ミュージカル Jesus Christ Superstar の曲を真似てスーパースターと言われたり、Twinkle,Twinkle,Little Star をもじって、Twinkle,twinkle,Superstar などと揶揄されたりする。腕に覚えのある囚人はクルーの前で挑発行動に出たりする。この男とは沼地の作業のシーンで泥をお互いの長靴の中に入れあうという、アメリカ映画の古典的なパイ合戦ギャグをもじったりするのだが、これあたりもアメリカの観客は喜ぶんだろうなぁ。

 一方で、刑務所には看守の作るセミプロ・フットボール・チームがあるが、毎年大会で2位の成績に甘んじている。所長は自分のチームを今年こそなんとか優勝させようと、チームにハッパをかけ、クルーにコーチになってくれないかと持ち掛ける。ところがこれはチームのリーダーでもある看守長が気に入らない。自分のチームを、スーパースターとはいえ囚人にコーチされるなんてまっぴら。そこで所長の誘いを断れとクルーに脅しをかける。

 クルーにコーチ就任を断られた所長は、クルーに囚人のフットボール・チームを作らせ、噛ませ犬にさせようとする。さあ、ここからがチームメイト集め。このへんは『7人の侍』を思わせる楽しさだ。とにかくヘンなやつばかりいる。のちにジェームス・ボンド・シリーズ『私を愛したスパイ』『ムーン・レイカー』でジョーズ役を演ることになる大男リチャード・キール。どう見ても凶悪な空手使いロバート・テシア。それに頭は足りないけれど怪力の持ち主とか、一癖も二癖もありそうなキャラクターが看守をぶちのめせるならと集まってくる。このへんの呼吸がいい。

 仲間集めやら練習風景やらのもろもろも飽きさせないで見せておいて、この約2時間ちょっとの映画は、1時間10分が経ったところで、もうクライマックスの看守対囚人チームの試合に突入する。なんと50分かけて試合の模様を映画にしている。こんな映画、後にも先にも皆無だろう。

 女装した囚人チアリーダーというのもおかしくて、国歌斉唱ももどかしく、あっという間にキックオフ。このリズムというかスピード感が見事というしかない。おそらくアメフトのルールを知っていればもっと面白く観られるのだろうが、そこはアルドリッチ、ルールなんてわからなくても、ちゃんと面白く見せる。そこが凄い。最初は囚人チームが優勢な闘いをしている。ここは痛快だ。寄せ集めの素人チームがセミプロを相手に勝っている。もちろん、反則スレスレのラフプレーなのだが、スーパースターだったクルーの実力でもあると見せる、上手いシーンのつみ重ねだ。

 囚人チームに勝たせるわけにはいかない所長は、休憩時間にクルーを呼び出し、囚人チームが負けないと刑期を伸ばしてやると脅しをかける。そして看守チームには、15点のリードを奪ったら、相手を徹底的に痛めつけろと命じる。

 さあ始まった後半戦。クルーは無気力試合を続けて16点差に負けているところで看守チームが囚人チームを痛めつけ始める。ここからクルーの反撃が始まる。一度仲間から信頼を失ってしまったクルーだが、徐々に取戻し一丸となって闘う。こここからの作戦が緻密に描かれていて、もう目が離せない。

 もう一度書くが、ひとつの試合シーンを50分もかけて、中だるみなく面白く見せてしまうなんていう映画はほかに無い。アルドリッチは遺作となった『カルフォルニア・ドールズ』でも最後の女子プロレスのシーンは長かった。それを飽きさせないで見せてしまうんだものなぁ。『北国の帝王』だってそう。リー・マービンとアーネスト・ボーグナインの貨物列車の上の闘いなんてのも実に長かった。それでも観るものを熱中させたもの。

 最後のタッチダウンはスロー・モーションになる。それまでの試合のシーンでは一切使わなかったスロー・モーション。ここぞとばかりに使うのが憎い。それまでアルドリッチがスローモーション撮影を使ったのなんて観たことが無かった。

 そういえば、画面分割という手法もアルドリッチは、これが初めてではないか。スピーディーで興奮させる展開には、これは効果的だ。

 ラストがまたいい。看守長にクルーが逃亡を図っているから撃てと命じる所長。それを撃たずに突き返す看守長。幕切れが実に鮮やか。ダラダラと引っ張らずに、サッと終わる。観客席の下を通って狭いフレームの中に納まるクルー。それだけでいいとしたアルドリッチの潔さ。アルドリッチ、男だねぇ。

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