風雲電影院

マッチ工場の少女(Tulitikkutehtaan Tytto)

2015年1月21日
DVD

 アキ・カウリスマキ、1990年の作品。年代順に言うと『レニングラード・カウボーイ・ゴー・アメリカ』と『コントラクト・キラー』の間に当たる時期に製作された作品。これがまたあの大笑いの『レニングラード・カウボーイ・ゴー・アメリカ』と、一応ハッピーエンドを迎える『コントラクト・キラー』とは打って変わった、救いがない、いや〜な印象しか残さないで終わってしまうのにショックを受けてしまった。

 冒頭はマッチ工場の様子が長いこと映される。「へえー、マッチって、こんな風にして作られるのか」という興味で私は引き込まれてしまった。

 そのマッチ工場で働くイリス。家庭は母と、その母と一緒に暮らしている男との三人暮らし。母は食事の支度もしないし、男はどうやらまともに働いていないらしい。家計を娘に押し付け、家事もしないで、いつもテレビを観ているだけ。テレビから流れてくるのは天安門事件のニュース映像。中国の自由化より前に自分の娘の自由をなんとかしてやりなさいと思えてくる。

 イリスは街に遊びに行くが友達もいないみたいだし、ダンスホールへ行っても誰も相手にしてくれない。そんなある給料日に、店先で見かけたドレスを衝動買いしてしまう。親からはぶたれて、返品してこいと言われる。それでもそのドレスを着て踊りに行くと男から誘われて、その夜は男と寝てしまう。ところがこの男は典型的なプレイボーイ。イリスとは一夜だけの遊びだと思っている。ところが今までモテたことないイリスは本気になってしまった上、妊娠したことが発覚。そのことを男に伝えると小切手を送ってきて堕ろしてくれと言われる。そこからイリスの取った行動とは。

 もうまったく希望の無い物語。観ていて思い出した映画がある。増村保造の『遊び』。主演が関根恵子(高橋寰q)。あの役も工場に勤める少女の設定だった。家庭が悲惨なのは『マッチ工場の少女』よりさらに上。街で知り合ったのが大門正明扮するチンピラ。チンピラは兄貴(蟹江敬三だよ!)に目をかけてもらいたくて、スケコマシをして、どこかへたたき売ろうという魂胆。ところがふたり、映画を観たり話をしたりしているうちにチンピラは少女を好きになってしまう。少女も相手がチンピラだとわかっていながら、初めて男から声をかけられて嫌なことはすべて忘れて夢中になってしまう。

 あの情熱的な『遊び』のことを思うと、この『マッチ工場の少女』はなんて冷めた目で描かれていることか。もともとアキ・カウリスマキはオーバーな演技を嫌う人で、役者にちょっとした表情だけで心情を現すことを要求する監督。明らかに増村保造とは正反対な演出。かなりクールだ。だからこそこの救いのない結末が生きてくるのかもしれないのだが。

 あいかわらず音楽の使い方がうまい。タンゴから始まって、エレキ、ロック、クラシックと、知らないけれどいい曲が並んでいる。イリス役の女優さん、アキ・カウリスマキの常連のカティ・オウティネン。決してブスではないけれど、凄い美人であるかどうかは微妙。でもイリスって、ある意味、カワイイ少女でもあるんだよね。親からも虐げられて、ようやく優しくしてもらえたと思った男からも棄てられ、取った行動とは、あまりにも救いのない行動。乾いたブラックユーモアの作品として、私はこれも決してきらいじゃないんだけど。それにしてもアキ・カウリスマキにかかると、・・・やはり辛いよなぁ。

1月22日記

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