真夜中の虹(Ariel) 2014年12月8日 三日月座BaseKOMシネマ倶楽部 アキ・カウリスマキは食わず嫌いだったことがはっきりした。『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』のような笑いの要素は少ないけれど、明らかにアキ・カウリスマキのテンポを持った作品。 北の炭鉱が閉鎖され、職を失ってしまう親子。父親は自殺。子供は父の形見のキャデラックに乗って雪深い街から南を目指す。南の街に着いた途端に路上強盗に合い、有り金すべてを失くしてしまう。日雇い仕事をして、ペッドがずらりと並んでいるだけの大部屋ホテルに宿泊。そこも金が払えなくなって追い出される。強盗犯を見つけて捕まえようとすれば逆に誤解を受けて警察に捕まり刑務所行き。 こうやって書いていると実に暗い話なのだけど、観ていてあまり辛くならない。省略法で淡々と話が繋がって行くから深刻な感じにならない。アキ・カウリスマキは役者に演技をあまり求めていないようにみえる。過剰な演技は不要。顔の表情も付ける必要は無い。どんなに厳しい状況に陥ったとしても感情を演技で現すことはさせない。ましてや台詞で感情を吐露させるなんてこともしない。いわばハードボイルド文体。もちろん楽しい、うれしいなんていう感情の台詞や表情も無い。 かなり波乱万丈なストーリーなのだが、場面を省略していく手法だから、たった74分。これ、まともに映画にしたら二時間越えの長い映画になるだろうし、観終ったらドッと疲れてしまうに違いない。 刑務所にぶち込まれる前にシングルマザーと知り合い、いい仲になる。刑務所で知り合った男とはすぐさま意気投合。この初めて出会うシーンが無言で煙草を吸うシーンなのだが、これだけで表現してしまう簡素さ。そして二人での脱獄。海外逃亡を図るため闇のルートで偽造パスポートを依頼。金が要るってんで銀行強盗。この銀行強盗のシーンの省略法には観ていて笑いがこぼれる。代金引き換えで偽造パスポートを受け取ろうとすると相棒が刺されてしまう。迷うことなく偽造パスポート屋を射殺。これは前の方でアメリカ映画のテレビ放映を観ていたシーンが伏線になっている。あとから気が付くと憎いカット。無駄がない。 『真夜中の虹』という邦題の意味がわかるのはラストシーン。フィンランド語で歌われる Over the Rainbow。メキシコ行きの貨物船に乗って、果たして新天地には幸せは待っているのだろうか? アメリカ映画の影響を受けているアキ・カウリスマキ。そのアメリカに渡るのではなく、『ゲッタウェイ』のようにメキシコへ向かうというのが、むしろアメリカっぽいではないか。 そうそう、刑務所で知り合った相棒がキャデラックの中で死ぬとき、「俺をゴミ捨て場に捨ててくれ。俺はもう眠る」ってかっこいい! ハードボイルドじゃん。でも本当にゴミ捨て場に穴掘って埋めるかよ(笑)。このへんのユーモア感覚もカウリスマキだなぁ。 12月9日記 静かなお喋り 12月8日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |