風雲電影院

みなさん、さようなら

2013年2月7日
テアトル新宿

 変なタイトルだなぁと思ったら、小学校のときにやった帰りの挨拶「せんせい、さようなら。みなさん、さようなら」から来ているのが観ているうちにわかった。懐かしいなぁ。

 小学校のときにある事件に巻き込まれて、それが元で登校拒否のまま中学を卒業してしまった主人公。それ以来、自宅ひきこもりではなく、住んでいる団地から一歩も外に出られなくなってしまう。

 今のように何かの理由で登校拒否をして家にひきこもってしまう人間が多いのは、昔では考えられなかったような気がする。昔もたしかに何人かはいたような気がするが、それはほとんど例外みたいなもので、みんな学校には通っていた。

 この映画の主人公の少年時代も昔の出来事。携帯電話もなかったころのお話。戦後に出来た団地住まいの母子家庭の一人っ子。中学を卒業すると団地内で働く決意をする。それがこの子の不思議なところであり、今の働こうともしないで、ひきこもってしまう人たちとは大きく違うところだ。飛び込みで団地内の商店に片っ端から入って、雇ってもらえないかと交渉する。そしてめでたくケーキ屋に就職。

 そこでコツコツとケーキ職人として働き続ける。偉い! 人間そうでなきゃ。

 映画は時代を一年一年追っていく。同級生だった団地の仲間は毎年次々とこの団地を出て行ってしまう。減っていく数字がテロップとして流れていく。それと同時に主人公の様子、団地内の変化が語られていく。小学校のときの事件以来独学で空手を学んでいく少年。そして恋愛模様も語られていく。一方、団地は老朽化が目立ち始め外国人移住者が増えていく。

 そして、主人公が30歳を過ぎたころ、決定的ともいえる事件が続けて起こる。

 ひとりの少年の成長の物語でもあり、再生の物語でもある。そして団地が衰退していく様を描いたものでもある。少年はトラウマから脱却して終わるが、団地はそのまま。好む団地がどうなってしまうのか、このあとのことが気になるが、それはこれからまだ時代が先になってみないとわからないのだろう。

2月8日記

静かなお喋り 2月7日

静かなお喋り

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