何者 2016年10月26日 TOHOシネマズ日本橋 ミステリ映画はないが、できたらネタバレしないで観た方がいい作品。できるだけ具体的なネタバレはしないように書きますが、できたら、映画をご覧になってから読んでください 朝井リョウの小説は読んだことがなかった。今時の若い作家ということで、食わず嫌いをしていたようなところがある。しかも映画化された『桐島、部活やめるってよ』を観て、世間で褒めているようには面白いと感じなかったせいもあって、最初は今度の『何者』もまったく気乗りがしなかった。しかし監督がポツドールの三浦大輔と知って、これは口当たりのいい映画になるわけがない。なにかあるなと思っていたら、方々で「最後の方まできてびっくりした」 「ネタバレしないうちに観た方がいい」という情報が入ってきて、これは早いところ観なけりゃという気になった。 就活って多くの人間が経験していること。私の苦い経験も重ね合わせて半分懐かしく観ていたが、今の就活って私らの頃よりも大変そう。私なんかだったらすぐにめげて「フリーターでもいいや」という気になってしまうかもしれない。 97分というコンパクトな映画だが、最後の15分くらいになるまで、就活を始めた大学生数人の様子が淡々と描かれる。しかしそのまま終わるわけがない。なにしろ三浦大輔だ。単なる就活青春映画を撮るわけがない。観ていて思ったのは原作を大きく変えるわけにはいかないから、三浦大輔っぽいキャラクターがいないという点。ポツドールの芝居には、見るからにダメな人間しか出てこない。働かず勉強せずセックスのことしか考えない、言葉遣いからしてバカっぽい。そんな人間ばかり。ところが『何者』の就活生たちは、サークル活動に夢中だったとしても、それなりに勉強してきたようだし、バカっぽい言葉遣いもしない。就活にも熱心。なんなんだろうこれ?と思って観ていると、ラスト15分になったころだろうか、映画は突然おかしな雰囲気になる。あっ、三浦大輔が動いたなという感じ。もちろん原作どおりなのだろうが、こうでなくては三浦大輔が監督する意味がない。 釜の蓋が開くというのだろうか。突然もうひとつのドロドロした部分が顔を出す。音楽も不気味になり、まるで違った映画になる。いや、実はよ〜く観ていれば、なんとなく和気藹々で就職活動を通して繋がっていた仲間の別の部分が表面に出てきただけのことだと気づかされるのだが。三浦大輔ならではの、押さえていたものの爆発が起こる。ポツドールの芝居でいえば『激情』や『顔よ!』のラストを観た時の感じに近い。それまで抑えていたものが噴出してしまった感じ。 ここにきて、これはまぎれもなく三浦大輔の世界だとわかる。演劇サークルをやっていた主人公拓人(佐藤健)が演劇の舞台に立つというシーンがイメージとしてこのあとに出てくるのだが、これがポツドールお得意の舞台セットを2階建てにして、別々の演技を同時にさせるという構成が出てきたりする。演劇が終わり真っ赤な緞帳が降りてきて、拓人ひとりが緞帳前で拍手を浴びるというのは、ポツドールとは真逆。ポツドールは舞台が真っ暗になって、拍手なんてさせるもんかと騒々しくも暗い音楽がかかりカーテンコールなど一切なしだった。この映画カーテンコールの場面は拓人に対する皮肉なのかもしれない。 ところで、私も就職が決まったときは、即戦力になってバリバリやるぞと意気込んでいたものだけど、会社に入ってみれば社会のことなんてわかっていなかった、まさに何者でもなかったとことに気づかされたっけな。 10月27日記 静かなお喋り 10月26日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |