風雲電影院

日本のいちばん長い日

2013年9月16日
三日月座BaseKOMシネマ倶楽部

 1967年作品。いままで未見でいたのが悔やまれる作品。

 公開当時、私は中学生。あまりこういうのは観たくないなぁと思ったのだと思う。これ以降東宝で毎年夏に公開される、8.15シリーズも何一つ観ていないのだから、自分に向いてないと思ったのだろう。だいたいからして戦争映画は苦手だったし。しかしこれは観ておくべきだった。いや、私だけでなく日本人全員に観て欲しい、そんな映画だ。

 軍部が終戦を阻止するために動くというのは、やっぱりあったんだという思い。あれは一種の軍事クーデター。それが成功していたら、どういうことになっちゃったんだろうと、ぞっとする思いがする。天皇陛下のためといって戦っていたなんて嘘っぱちだということがわかる。その天皇陛下の玉音放送の録音盤を奪おうなんていうんだから。このへんの軍部とのかけひきというものも、まるでサスペンス映画のように良く出来ていて、宮内庁の押入れの中の手提げ金庫に入れて、さらにその上から書類やらを積んで隠す見事さ。軍部が押しかけてきてからの、かけひきの面白さ。いや、面白いなんて言ってしまっては不謹慎か。死人まで出ているんだから。そして軍部は放送局まで押さえようとする。
 その一方で、迫りくるアメリカ艦隊に特攻隊を出撃させる狂気。ここまで来て、いらぬ死傷者を作らせる軍部に怒りを覚える。

 この映画の3年後、1970年に三島由紀夫の事件が起きる。私は高校生。授業中にこっそりトランジスタラジオを聴いていたクラスの不良から、私はそのことを知らされた。市ヶ谷の自衛隊駐屯地でクーデターを起こそうとしたのだが、もうこの時点での自衛隊には、そんなことに乗るような人間はいなかったということだ。
 それでも、あのころ世の中はまだ騒然としていた。安田講堂事件は1969年。そしてあの、あさま山荘事件は1972年だった。その後、私が学生時代には三里塚闘争なんていうものはまだあって、学内はどこか騒然としていた。でもそのころには大多数の人たちはもう動こうとはしなかった。そういう時代になっていったのだ。

 今のように軍部からも、民衆からもクーデターといったものが起こりえない時代からみると、あの終戦の日の混乱は、現実にあったものとは思えない恐ろしさがある。そして、いかに軍部が政権を握ってしまっている国家が危険なものか、これを見るとはっきりする。

 あの終戦の日を前にした丸一日が、いかに暑く熱かったという記録をドラマにした映画である。もう今から46年も前の映画だが、役者がみんないい演技をしている。昔の役者の方が上手かったという意見には、私は異論を持っているが、少なくともこういう顔つきの役者を揃えようとしても、今は絶対に無理。みんな、実際に戦争を体験してきた役者がやっているのだ。明治生まれ、大正生まれ、昭和初期の生まれといった役者が、実にそういう顔と精神で、この映画で演技している。その迫力たるや、今の役者は敵わけはない。

 橋本忍の実によく出来た脚本。そして『独立愚連隊』などの娯楽戦争映画を撮って来た岡本喜八だからこそ作り上げられた奇跡のような映画だ。

 繰り返すが、これから生まれてくる日本人の子孫にもぜひ、この映画を観て欲しい。

9月16日記

静かなお喋り 9月16日

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