風雲電影院

おじいちゃんはデブゴン(The Bodyguard 我的特工爺爺)

2017年5月30日
新宿武蔵野館

 サモ・ハン・キンポーが監督・主演・アクション監督を務めた新作。しかもカンフー映画。久しぶりにデブゴンが帰って来た。

 今回は66歳の高齢者の役。サモ・ハン・キンポー自身、実年齢が今の時点で65歳。この映画を撮っていたのはおそらく64歳だっただろう。さすがに昔ほどの身体のキレは無くなっているらしく、カンフーのシーンも引きの構図がほとんど無くなり、アップと編集になってしまっているし、身体もあまり動かしていない感じ。それでも昔のイメージがあるから様になっている。

 それよりも今回の役は、認知症が始まってしまった男。これがもう私なんかも、いつ認知症になってしまうかの不安を抱えるトシになってしまっているから、身に染みてきてしまう。

 人民解放軍の要人警護を担当してきて、引退して故郷の村で独り暮らしをしているサモ・ハン。彼には昔、孫娘を見失い行方不明にしてしまったという過去があり、実の子供からも縁を切られてしまっている。おお、なんていう悲しい設定なんだ。
 隣の家に少女が住んでいて、この子と仲がいいのだが、この子の父親がマフィアに巻き込まれてしまい、さらにこの子も誘拐されてしまう。サモ・ハンは孫娘と隣の少女のことが頭の中でごちゃまぜになりながら、少女を救出に向かう。

 昔武術を極めた人物が、そのまま認知症になってしまうというのは、身体に凶器を身に着けたまま、頭だけイッてしまうわけで、危険極まりないことになる。認知症になると、その人の本来の性格、いわゆる本性といったものが出てくるもので、私も多数目撃している。まず学校の先生とか、どっかのお偉いさんだった人は認知症になると始末が悪い。相手かまわず威張って見せたり、言うことを聞かなかったり、我がままだったりして質が悪い。
 サモ・ハンの元軍人は、きわめてできた人物なんでしょうな。威張って見せたりすることはなく、極めて物静か。まあカンフーを極めた人物は、精神面でも、常日頃、己を律してきたから、認知症になっても、おかしな性格が出てくるなんていうことはないのかもしれないのだが。

 逃げた相手を追いかけようにも、もう若いころのように走れない。それでも、ゆっくりゆっくりでも相手に近付いて行く。なんか思いつめたような認知症の人の顔つきを、サモ・ハン・キンポーはよく研究していて、鬼気迫るものがありました。

 ラスト、穏やかな表情で眠るサモ・ハンがとてもいい。

5月31日記

静かなお喋り 5月30日

静かなお喋り

このコーナーの表紙に戻る

トップ アイコンふりだしに戻る
直線上に配置