パラダイスの夕暮れ(Shadows in Paradise) 2015年4月1日 DVD アキ・カウリスマキの映画が面白いと気が付いて追いかけ出しているのだが、この第三作目に当たる『パラダイスの夕暮れ』も面白かった。後に撮ることになった『真夜中の虹』『マッチ工場の少女』と合わせて労働者三部作と呼ばれているらしい。 労働者階級同士の恋物語とでもいうのだろうか? ゴミ収集業のニカンデルと、スーパーのレジ係のイロナ。ニカンデルには『真夜中の虹』のマッティ・ペロンパー。イロナには『マッチ工場の少女』のカティ・オウティネン。このふたりが知り合うのだが、ふたり共とにかく笑顔を一度も見せることが無い。これって、恋愛映画って呼んでいいのか? デートに行ってもなにも楽しそうじゃない。イロナがどこへでもいいから連れて行ってと頼んでも、案内できるのは、ただみんなが黙ってビンゴに没頭していると言う不思議な店。フィンランドって、こんな商売があるの? 何も盛り上げようとしない女性DJがひたすら数字を読み上げるだけ。参加者はひと言も発せず没頭している。まあ女性にとっては退屈極まりない男なんだけど、イロナも笑顔くらいみせてあげればいいのに。 そんな中、イロナが今年3回目の解雇。ムシャクシャしてニカンデルにドライブに連れて行ってくれと誘うものの、ホテルに泊まっても別々の部屋。不器用な男だね、ニカンデル。さすがにジレたイロナが、レストランで「なぜ私といるの?」と問うと、「俺には理由なんかない。あるのは名前とゴミ車の制服だ。虫歯と病んだ肝臓、慢性胃炎。いちいち理屈をこねる贅沢など俺には無い」と来る。 イロナはスーパーを辞める時に小型の現金入れを盗んでしまうのだが、ニカンデルはそれをソッとスーパーに戻しに行く。一旦イロナに窃盗の容疑がかかるが現金入れが出てきたので釈放。別のブティックで働くようになり、どうもニカンデルを見離し、そこの店長といい仲になっていくような気配。 ニカンデルはこんな仕事をしていながらも向上心はあり、英語を学ぼうと、LL教室に通っている。そこで彼は衝撃的な文章に出会う。「傷つけられても、短所があっても、愛していれば、すべて楽しみのうちだ。おかしいものだ。非常におかしい。おかしくて楽しくて、恋ってそういうものかも」。そして彼はまたイロナに逢いに行く。 一緒になってもイモくらいしか食べられないかもしれないと言うニカンデルに、イロナはついていくと答える。ラストはアキ・カウリスマキお得意の、船に乗っての旅立ち。いいんだなぁ、これが。 不思議とアキ・カウリスマキの映画って、何回でも同じものでも観たくなる。こういう監督って珍しいよ。 さて、この映画も音楽の使い方が素晴らしい。いろんなジャンルの音楽をたくさん入れている。そうそう、後半ニカンデルがゴミの中からレコードをみつけて、SONYのレコードプレイヤーを手に入れて部屋で聴くようになる。前半には、これまたアキ・カウリスマキお得なのだけど、イロナがラジオを持ち歩いて聴いているシーンで、イロナは音楽好きというのを伏線にしておいて、そのイロナと別れそうになるニカンデルが突然音楽に目覚めることで、ふたりは音楽で結ばれたのかもしれない。 今回、ブルースに限って言えば、アルバート・コリンズ、ジョン・リー・フッカー、エルモア・ジェイムスが流れる! わかる人だけ、わかればいいんだけどね。 4月2日記 静かなお喋り 4月1日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |