風雲電影院

『さらば青春の光』(Quadrophenia)

 三日月座BaseKOMシネマ倶楽部にて。

 ザ・フーの『四重人格』を基にした映画。1979年。

 以前に2回ほど観ているが、2回とも、あまり好きになれない映画だった。というのも、私はこういう映画を観ると、なぜか妙にモラリストになってしまうかららしい。どうしても主人公のジミーに共感できない。モッズ族であることはいいとして、彼女とうまくいかなくなり、退屈な仕事は辞めてしまい、両親とも喧嘩して、モッズ族のカリスマ(スティングだよ!)がただのベルボーイだったことに失望し、クスリやって、最後はスクーターで海沿いの崖から飛びだし死んでしまう。そんな奴に同情できるわけないじゃないか。

 それが先日のことだ。4月のザ・フーのロジャー・ダルトリー来日公演のチケットを買ったこともあり、ザ・フーのCDを店で見ていて、『さらば青春の光』のサントラ盤があったので衝動的に買ってしまった。というのも、ザ・フーの曲以外にも、映画の中で使われたオールデイズが何曲も入っていたからで、ザ・キングスメンの『Louie Louie』とか、ブッカー・T&MG’sの『Green Onions』、カスケーズの『悲しき雨音』、ロネッツの『Be My Baby』など。これは買うっきゃないでしょ。

 それで中に入っていたライナー・ノーツを読んだ。一曲目は映画の冒頭で流れる『I Am the Sea』。この映画の中でも使われているザ・フーの楽曲をコラージュ風に使った曲。ライナーには、「これはジミーの“回想”」とある。つまりラストシーンで、スクーターで崖から海へ飛び出して行ったジミーは死んだと思われがちだが、この映画のトップシーン、夕暮れの海岸を逆光で歩いてくるジミーは、死んだと思われかねないジミーの、その後の姿だったのだ。
 その瞬間、私の中でこの映画が変わった。そうか、ジミーは死んでなかったんだ。となると、死ねなかったジミーはこのあと、どうなったのだろうか。それが、この映画のタイトル『さらば青春の光』なんだ。これは青春との決別の映画だったんだ。人によっては、「ザ・フーの『四重人格』に『さらば青春の光』なんて腑抜けたタイトルを付けるとは!」と言い出しかねないが、これはこれで、いい邦題になっている。きっとジミーは、この事で成長して大人になっていったんだろう。
 今回の上映後も、「ラストシーンでスクーターだけ落として、ジミーが落下するシーンがないのは予算の関係だろう」と話しておられる方があったくらいで、普通、ジミーは死んだと思ってしまうわなあ、あれは。

 ジミーの青春を描いた成長物語として観ると、この映画は急に楽になる。私らもほぼ近い青春を通過して来たからだ。
 まず目を引くのはベスパ(スクーター)。私の場合、モータリゼーションにあまり興味が無く、遅すぎる青春を迎えたのは30代になってから夢中になってしまったオートバイ。だけど、だからわかるんだなあ。
 モッズ・ファッション。時代によってファッションは変化するし、あまり服装に頓着のなかった私だが、このズボッとしたコートは着ていた時期があった。
 ブライトンの街でのロッカーズとモッズ族の抗争。喧嘩ねえ。喧嘩はしなかったけど、私らの頃は学生運動の真っただ中。学生運動にも加わらなかったけれど、妙に血が騒いでいた私がいた。
 異性。この映画に出てくるステフ(レスリー・アッシュ)って魅力的だ。ところが、こういう女、いるんだよねえ。次から次へと男を渡り歩く女。ジミーはステフに翻弄されてしまう。ふたりが愛を交わしたブライトンの路地裏にまた行ってしまうジミー。わかる、わかる。
 クスリ。うーん、ノーコメント。
 音楽。ジミーが風呂に入っていると、隣で『Be Bop a Lula』(ジーン・ヴィンセット。のちにエルヴィス・プレスリーもカヴァーしている)を歌っている奴がいる。負けじと『You Really Got Me』を歌う。隣の奴は友人だとわかるのだが、こいつはロッカーズになっている。いまだに50年代している野郎だ。これにキンクスを被せる。今はもうロックは変わったんだぜと言いたかったに違いない。
 ちなみに、若者だけのホームパーティーでカスケーズの『悲しき雨音』がかかっていると、ジミーが、ザ・フーの『My Generation』に変えてしまうシーンもある。ということは、この映画の時代設定は1960年代の中ごろということになる。
 オールデイズも好きだけど、私にとって、やっぱりロックは60年代から70年代だ。

 アメリカ映画の明るい陽光の空の下の青春ではなく、ロンドンやブライトンのどんよりと曇った空の下の青春。行き場を無くしてしまうジミーの気持ちが表れているような、青春のわずかな光。以前よりもはるかにこの映画が好きになって来た。

2012年3月6日記

静かなお喋り 3月5日

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