風雲電影院

野蛮なやつら/Savages(Savages)

2013年3月21日
TOHOシネマズみゆき座

 オリバー・ストーン監督作品。オリバー・ストーンというと社会派の監督というイメージが強くて、ドン・ウィンズロウの原作をぶち壊しているんじゃないかと思って心配したのだが、これ、全然そんなことなくて面白かった。

 私らの世代の映画青年たちは、ほとんどみーんなロベルト・アンリコの『冒険者たち』にイカレれてしまっていたのだが、あの男ふたりに女ひとりのトライアングル・ラヴって、あとからもあれをパクった映画が作られていながら、どれもこれも『冒険者たち』を超えられないどころか、惨敗状態になってしまっている。無理なんだろうね。トライアングル・ラヴってアンリコだから描けたんだろうし、アラン・ドロン、リノ・バンチェラ、ジョアンナ・シムカスがいたからこそ出来た映画だし、彼らがたまたまあの年齢だったから成立したんだろうという奇跡的な映画。

 それでこの『野蛮なやつら/Savages』もトライアングル・ラヴが根底にあるのだけれど、それをあまり表面に出さないで踏みとどまっているから、また別の面白さが出てきた気がする。

 最初のうちは、「どうもなあ」という感じで観ていた。だって、こいつらタイトル通りの悪党なんだもん、一応。大麻の良し悪しは置いておくとして、上ものの大麻を栽培して大儲けしている。その儲けを寄付に回しているという設定はあるにしても、やはり悪党でしょ。『冒険者たち』の3人が夢破れて一攫千金を狙いに行くのと違って、最初っから大麻で大儲けしている。

 オリバー・ストーンとしても別にトライアングル・ラヴを正面切って描く気はないらしくて、しかもロマンチックとは程遠い3人がセックスで結ばれている様子が描かれていく。まさに野蛮なやつらなんだよね。

 ところが、もっと野蛮なやつらがいて、この3人の稼ぎの上前を撥ねようする。『冒険者たち』でも3人が探し当てた財宝を狙ってくるやつらがいたが、『野蛮なやつら/Savages』に出てくるやつらの方が人間的に“濃い”やつらなんだから、ひょっとしてオリバー・ストーンの目論見は、主役3人ではなくてこっちの側にありそう。映画はすでに大儲けした3人が、もう楽して暮らそうとしているシーンから始まるんだから。

 何といっても筆頭は女ボスのサルマ・ハエックでしょ。『デスペラード』で南米系の“濃い”マスクとグラマーな肉体で現れたときは鮮烈だった。彼女ももう熟女って感じになったね。あいかわらず胸大きいし。『パルプフィクション』のユマ・サーマンみたいなストレート・ヘアのカツラで登場して、やりたい放題。それでいて自分の娘が誘拐されたとなると半狂乱になるあたりが、妙にかわいかったり。

 それにベニチオ・デルトロだよなぁ。悪役を実に楽しそうにやっているもの。これまた顔つきもキャラクターとしても“濃い”。

 悪役たちは揃いも揃ってキャラが立っているのだけれど、肝心の主役3人にあまり魅力を感じないのがイマイチ。どうでもよくなってくる。ヒロインのアーロン・テイラーってのも、どこが魅力なのかわかんない。金髪だってだけで、別にどうってことない感じだし。

 そして、これまた“濃い”のがジョン・トラボルタの麻薬捜査官。年取って太ったなぁ。『サタデー・ナイト・フィーバー』のあのスマートな体型はどうしたの? 髪も薄くなって見る影もないのだけど、これまたいいキャラクターとして出てくる。まるでいいとこなしの捜査官なのだが、結局観終ってみると、この人が一番得な役を引き当てて、映画全体をサラって行ってしまった感じ。

 サルマ・ハエックに『パルプ・フィクション』のユマ・サーマンを感じたり、これまた『パルプフィクション』でのユマ・サーマンの相手役だったジョン・トラボルタが出ていたりと、妙に『パルプフィクション』とシンクロするところがあって、これがオリバー・ストーンとは信じられないような映画になっているが、案外ストーンって本音はこういう映画が作りたい人なのかもね。

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