風雲電影院

昭和残侠伝 破れ傘

2014年1月27日
三日月座BaseKOMシネマ倶楽部

 正月映画特集、最後の一本は1972年暮公開の『昭和残侠伝』シリーズ最終作。1965年に第一作目が作られて、年に一本という、ゆったりしたペースで作られていたから、当時の東映としても、これは大事にしていたシリーズだったようだ。これだけのシリーズというのに、正月映画として公開されたのは、これが最初で最後。併映がシリーズ二作目の『女囚さそり 第41雑居房』。

 顔づけもいい。主演はもちろん高倉健と池部良。これに鶴田浩二、北島三郎、安藤昇。女優は、もうこのときは藤純子は引退していて、星由里子。それに初出演の壇ふみ。

 今から観ると、正月から観る映画じゃねえよなぁとも思うが、そういう時代の、これが最後だったのかもしれない。松竹では『男はつらいよ』シリーズが当たって、前年から寅さんを正月映画として公開するようになっていたのだから、正月からヤクザ映画というのは、もうこの辺までで限界だったかもしれない。現に翌年の東映の正月映画はシリーズ四作目の『女囚さそり701号 恨み節』だし、併映はなんと高倉健『ゴルゴ13』。アチャー。

 私は東映ヤクザ映画オールナイトというのは、ほとんど体験していない。ヤクザ映画ファンというわけではなく、どちらかというと映画青年だったから、そっちには行かず、もっぱら池袋文芸坐のオールナイトに毎週のように通っていた口だった。だから東映オールナイトで、『唐獅子牡丹』を口ずさんだり、見せ場で拍手をしたりというのはやったことが無い。話に聞くと、何回も観ている観客が、殴り込みで高倉健が後ろから斬られそうになると、「健さん、うしろ!」と声をかけていたとか(笑)。

 ヤクザ映画の基になっているのが『忠臣蔵』だというのは有名な話だが、この映画の冒頭、安藤昇が賭場で恥をかかされるシーンは、まさに松の廊下。でも、だからってすぐにドスを持って殴り込みっていうのは無茶な展開だよなぁ。そのあとも結構無茶な脚本で、とにかく人がやたらに死ぬ。もう自分の妹まで斬ってしまう山本麟一の悪役なんて、「そこまでする?」だし、高倉健が渡世の義理で池部良と対決するシーンでは、池部にとっては妻、高倉にとっては昔の恋人である星由里子を誤って斬ってしまう・・・って、どんだけ身内を殺せばいいの?

 ちなみに上の高倉と池部の対決シーン、健さん、カッコイイ台詞がある。「斬っても因果、斬られても因果。お互い恨みっこなしにしましょう」 でもだからって星由里子斬っちゃっちゃあ元も子もないよなぁ。それで、池部良がその後も冷静でいるっていうのも納得いかないし。だいたい戦前の話といっても人ひとり斬り殺されちゃったら、それで済む話じゃないだろうに。

 そういえば、壇ふみの登場シーンは短いけれども、これも舌を噛み切って死んじゃうなんて悲惨としかいいようがない。北島三郎だって、あの死に方はなあ・・・。安藤昇も死んじゃう、鶴田浩二も死んじゃう。正月早々、よくこんなのを観てたもんだけど・・・。

 あと気になったのが鶴田浩二が高倉健の役名、秀次郎のことを「しでじろう」と言うのも気になったなぁ。これ、郡山の話だよね。江戸っ子じゃないんだから、しとひの区別がつかないわけでもないだろうに。

 このあと東映は正統派ヤクザ映画から撤退して実録路線になっていくわけで、ラストシーンの雪の中の花アップは、ヤクザ映画終焉の手向けになってしまったかのようだ。

 終映後、このシリーズのプロデューサー吉田達氏のお話があった。これがまたいろいろと面白い裏話が聞けて楽しかったのだが、どこまでがオフレコなのかわからないので書かないことにする。やはり現場の話は面白い。

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