風雲電影院

新・兵隊やくざ

2016年7月4日
三日月座BaseKOMシネマ倶楽部

 『兵隊やくざ』シリーズは、映画館では一本も観たことがない。テレビ放映のみ。まだテレビが横長ではなかった時代だから、画面の左右がバッサリと切られたサイズ。それでも、とんでもなく面白いシリーズで、放映がある日が楽しみだった。

 シリーズ3作目。第一作目『兵隊やくざ』が好評だったのでシリーズ化されたのだろうけれど、おそらくシリーズ化を嫌った増村保蔵に代わって、娯楽作品をキチッと撮れる田中徳三にバトンタッフされたのだと思う。こうなると一作目で見られた増村保蔵の徹底した個人主義といったテーマは引き継がれたものの、どこかユーモラスが漂い始めている。そのことは、あくまで娯楽映画を作る大映としては、田中徳三への交代はプラスだったろう。後に東宝でまた増村保蔵を担ぎ出して撮ることになる最終作『兵隊やくざ・火線』を除いて、第8作まで製作されることになるのだから。

 一作目のラストで、軍隊を脱走した有田と大宮だが、結局また軍隊に逆戻り。二作目のラストでもまた脱走。この三作目でも逆戻りになるが、今度はさっさと脱走してしまう。かといって日本に戻れるわけもなく、ピー屋(慰安所)を始めるふたり。軍隊からは自由になれたが憲兵からは睨まれていて、悪いことやっている憲兵と対立する。こうなると本来の『兵隊やくざ』の世界とは微妙に違ってきているのだが、大宮貴三郎と有田上等兵のキュラクターの面白さで引っ張っていく。

 日本人って不思議な国民で、敗戦後にたくさんの戦争映画が作られた。シリアスなものから、こういった軍隊内部を描く娯楽作まで。それだけあの戦争を映画の形で観たいという人が多かったからだろうが、もうここ何十年かは、さすがに戦争映画はほとんど作られなくなった。戦争を知っているスタッフもキャストも、この世からいなくなってしまったということが最大の原因だろうし、以前と違って、街に戦後を引きずっているものが、まるで見当たらなくなってしまっているということもあるのかもしれない。

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