愛しのタチアナ 2016年8月2日 DVD 1994年、アキ・カウリスマキ監督作品。お得意のロードムービー。 ヴォルトはコーヒーがないといられない仕立て職人。独身で財布の紐は母親に握られているらしい。母親と喧嘩になって、母親のバッグから金を持ち出し、家を飛び出す。修理工場に預けてある自動車を受け取りに行くと、修理工のレイノが新しいエンジンに取り換え終えたところ。ふたりでエンジンの調子を確かめに走り出す。レイノは話好きで、どうでもいいようなことを喋りまくる。一方のヴォルトはひたすら無口。このあたりタランティーノの映画を思わせる。 たまたま入った食堂で、ヴォルトはコーヒー、レイノはウォッカ(瓶ごと)を飲んでいると、バスで帰国途中の、ふたりの女性。エストニア人のタチアナとロシア人のクラウディアに、バスが故障で立ち往生してしまっているので、港まで送ってもらえないかと声をかけられる。これといって目的もなくドライブしていたふたりは、この申し出を受けて4人で港まで向かうことになる。ロシア人のクラウディアはフィンランド語はほとんど話せず、エストニア人のタチアナはいくらか喋れる程度。ヴォルトもレイノも急に何も喋らなくなる。ふたりの男にタチアナは「なんで何も喋らないの」と言うのだが、言葉の壁なのか、はたまたこの男たちは女性を前にして何も喋れなくなってしまったのか。 アキ・カウリスマキは例によって、そういうことを一切、台詞などで説明しようとしない。役者にもほとんど無表情に近い演技を要求しているようだ。本来あるべきシーンがなかったりするのも、それは観る人によって、勝手に想像してくれということかもしれない。 港まではまだ遠いらしくて、ホテルで一泊することになる。お金がないらしく、シングル二部屋。ヴォルトとレイノが別々の部屋に入って行き、そのあとをクラウディアはヴォルトの部屋、タチアナはレイノの部屋に、それぞれ入っていく。 レストランで4人がテーブルに着き、女性二人はワイン、レイノはまたウォッカのラッパ飲み。ヴォルトはコーヒー。それでも4人は会話にならない。 女が男の部屋に入ってきたんだから、これはもう男はヤれってことでしょ・・・なんて思うのはすれっからしの男の考えること。アキ・カウリスマキの映画は、そんなことにならない。ウォッカに酔っぱらったレイノは、部屋に戻り、煙草を手に挟んだまんま寝てしまう。そっと手から煙草を外してあげるタチアナ。 好きになった女がいれば、男は盛んに相手の女に喋りかけて気を引くものでしょ。・・・そう思うのは私だけなんだろうか? 無口の男ってうらやましいと思うことがある。よく無口な男性と女性が、何も喋らずに仲良くしている姿を見かける、「いいなぁ」と思ってしまう。あの人たちには言葉なんていらないんだよね。 夜が明けて、次のシーンがいい。タチアナがひとり、ベンチに座っていて、そこにレイノが現れる。レイノはタチアナのすぐ隣にくっつくようにして座るのだ。そうするとタチアナがレイノの肩に首を擡げる。やっぱり、あのあとホテルの一室でレイノとタチアナは男女の関係になったんじゃないだろうか? これがアキ・カウリスマキの省略法の上手いところ。 港に到着したあとの4人の結末も、みんな「いいなぁ」と思われる終わり方。また最初から観直したくなってくる。アキ・カウリスマキの映画って、ほとんどそんな映画ばかりなんだよなぁ。 レイノはロック好きという設定で、ロック・ミュージック(主にオールデイズ)がたくさんかかるのも、いつもながらのアキ・カウリスマキで楽しい。 8月3日記 静かなお喋り 8月2日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |