風雲電影院

冷たい雨に撃て、約束の銃弾を(Vengeance 復仇)

2016年3月14日
三日月座BaseKOMシネマ倶楽部

 6年前に公開されたときに、新宿武蔵野館で観た。

 ジョニー・トーは自ら、『ザ・ミッション 非情の掟』 『エグザイル 絆』 そしてこの『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』の3本を三部作と呼んでいるらしいが、ようするに同じ骨格を持った映画だ。アンソニー・ウォンを中心にしたはぐれ者の仲間がいて(必ずラム・シューが加わっている)、仲間の誰かのとった行動が暗黒街を仕切るサイモン・ヤムの怒りを買ってしまう。アンソニー・ウォンらは仲間を守るためにサイモン・ヤムと敵対する。

 このころのジョニー・トーは、フランスのフィルムノワールやヨーロッパ映画の香りを自分の映画に取り込めないかと思っていたんじゃないんというな気がする。この映画の一本前の作品が『スリ』。三部作でいかにもな悪役をこなしたサイモン・ヤムが主人公。一転柔和な表情のスリ集団のリーダーを演じている。このサイモン・ヤムは一人住まいの部屋で小鳥を飼っているのだが、そのイメージはまるでアラン・ドロンの『サムライ』。趣味が写真を撮ることで、消えゆく昔の香港の風景を二眼レフカメラで収めている。そこにまるで小鳥のようにひとりの女性がカメラの前を横切る。実は彼女もスリで、香港のスリの世界のボスの情婦。ボスから逃げ出そうとしている。原題の『文雀』は文鳥のことで、サイモン・ヤムのところに飛び込んできた小鳥のような存在で、しかも文鳥はスリの隠語でもあるらしくて、ダブルミーニング、トリプルミーニングのタイトル。このサイモン・ヤムが写真を撮っているシーンなど、香港島の坂の石段がイタリアあたりの洒落た石段のように見えてくるのだから面白い。映画全体も小洒落た作りで、観ていて気持ちがいい映画。ジョニー・トーの数ある傑作のなかでも、私は特に気に入っている。

 その『スリ』のあと、今度は本当にフランスから役者でもあり歌手でもあるジョニー・アリディを呼んできて撮ったのが本作。よりフィルム・ノワールに近づけようとしたんじゃないかと思う。それで例のお馴染みのパターンを見せた後で、ジョニー・アリディに視点が移る。あの、公園で子供たちがサイモン・ヤムのところに集まってきてシールを張り付けて、それを目標にしてジョニー・アリディが銃をぶっ放すところ。あれはまるでクルーゾーかシャブロルの映画を観ているようではないか。

 ジョニー・トーお得意の食事シーンも、たくさん出てくる。ジョニー・アリディがみんなにパスタを作って、それをテーブルの中央に置き、みんなで分け合って食べるシーン。西洋の食事文化では、ひとつのものをテーブルの中央に置いて、みんなで取って食べるなんていう習慣はない。それをみんなが一緒に食べ、拳銃の扱い方を見せ合うことでことで彼らはブラザーになれた。何しろ方やフランス語を話すフランス人、方や広東語を話す中国人。お互いに片言の英語しか話せないのだが、それだけで意識が通い合う、いいシーンだ。
 一方でジョニー・アリディの娘の仇である三人組から振る舞われた食事はジョニー・アリディが率先して、こんなものは食えないと言い出す。ここもいいシーンだ。
 ラストシーンは、海岸で子供たちと一緒に笑いながら食事をするジョニー・アリディ。もうすっかり打ち解けている。
 それに対して、常にひとりで食事をしているシーンばかりなのがサイモン・ヤム。彼には兄弟とか家族とい呼べるものがいないんだね。常に上下関係の上にいないといられない人物。
 そういう意味からすると、フィルムノワールの香りを取り込もうとして、結果的にこの映画は、極めて中華圏の思想、風習、習慣を色濃く際立たせてしまった、なんとも不思議な映画になっているともいえるかも知れない。

3月15日記

静かなお喋り 3月14日

静かなお喋り

このコーナーの表紙に戻る

トップ アイコンふりだしに戻る
直線上に配置