風雲電影院

ヤクザと憲法

2016年1月29日
ポレポレ東中野

 東海テレビの制作したドキュメンタリー。このタイトルはおそらくあとから考えたのだろう。ポスターなどに書かれた惹句「これな、わしら人権ないんとちゃう?」といったテーマは取材しているうちに浮かび上がってきたことなのではないだろうか。

 ヤクザ、暴力団といったものには゛怖い”と感じるものの、実際どういう日常を送っているのだろうという興味はある。コラアゲンはいごうまんの体験取材漫談に『ヤクザの組事務所に一ヶ月』というのがあって、それはもう知らなかった世界を話芸で体験させてもらえたけれど、こうやってカメラが実際の組事務所に入るというリアルな体験は、また別のものがある。映し出されるのは本物のヤクザと、その組事務所なのだ。

 なにしろ実在のヤクザだから、顔つきや言葉使いは怖い。俳優が演じるヤクザの比ではない。しかしどこか人間的。組事務所内部を案内してくれる人なんて、とてもヤクザとは思えない愛想のいい人。
 本棚がある。人の家の本棚って気になるもので、ヤクザの組事務所の本棚ってどんな本が並んでいるんだろうと気になる。同じ本が何冊も並んでいたりする。その理由を聞かされるとびっくり。その手の本以外にも普通の小説が並んでいたり、なかには猫の写真集もあったりする。刑務所に入ったりするとこういう本が癒しになるんだとか。
 「拳銃が見当たりませんね?」と訊くと、「銃刀法違反になりますもの、そんなものは持ってません」と笑ってみせたり、何やら取引の現場を目撃したので「なんの取引ですか? クスリですか?」と問い詰めてみると「いや、そんなんじゃありませんよ」ととぼけてみせる。

 部屋住みの青年がいる。部屋住みとは、組事務所に寝泊まりして生活している者。ちょうど落語家の内弟子修業に似ている。この青年、とてもヤクザ志願に見えない。どこか気弱そうな青年で大丈夫なんだろうかと気になってしまう。

 そして取材を通して見えてくるのは、ヤクザと人権。憲法第14条、法の下の平等だ。ヤクザ相手なら法の下の平等を少しくらい犯してもいいじゃないかという風潮。それも暴対法から生まれてきたもの。ヤクザ締め出しのために、今では預金口座も作れない、子供は幼稚園にも入れない、自動車の修理に入っていた保険を使おうとしただけで、ゆすりだとみなされてしまう。弁護士は誰も味方に付いてくれない。唯一弁護を買って出てくれた山之内弁護士も追い詰められてしまう。山之内弁護士の事務所で働く唯一の事務員は、ヤクザの弁護をすればたくさんお金がもらえるとでも思っているのか。今、ヤクザは金なんて持ってないんですよと語る。

 見えてくるのは、不当に人権を無視されているヤクザという構図。だけど観ていて、もちろんヤクザを肯定するわけにもいかないというジレンマもある。

 ヤクザから足を洗ったからといって、どこへ行けばいいのか、どこが受け入れてくれるんだという言葉を聞いていると、しかし世の中、一度落ちてしまうと、なかなか上に出られないのはヤクザだけじゃない気がしてくる。リストラされた社員。派遣、フリーターといった非正規雇用人口の増加といったことを思うと、この国の仕組みに、なんだかやりきれなさを感じてきてしまった。

1月30日記

静かなお喋り 1月29日

静かなお喋り

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