欲望の翼(A Day of Being Wild 阿飛正傳) 2014年8月10日 WOWOW放映録画 1990年、ウォン・カーウァイ監督の2作目。公開当時観てすっかり魅了されてしまった映画だけれど、あれから20年以上経ってようやく2回目の観賞。やっぱり傑作だわ、これは。ウォン・カーウァイは、これと『恋する惑星』と『天使の涙』の3本が面白くて、あとは「なんだかなぁ」という映画ばかり。この3本に共通するのは青春映画だということ。いつまでも青春映画ばかり撮ってらんないということかもしれないけど、私には、ほかの作品とのギャップがありすぎのような気がする。 3本とも、クリストファー・ドイルの映像が美しいのと、音楽の選び方のセンスが抜群。この映像と音楽に酔わされてしまう。ただ、あとの2本と決定的に違うのは、設定を1960年ごろにしている点。屋外の撮影は少なく、なんととなく暗いムードが漂う。ほかの2本が設定を現代にして屋外ロケも多く、音楽も明るいものが多いのとは好対照。暗い青春映画なのだ。 ウォン・カーウァイは、これを30代で撮っていて、1960年という時代設定は自分の幼少時代。ノスタルジックなものにしようとしたのだろうが、30そこそこで、これだけのものを撮ってしまうのだから、凄い才能であることは間違いない。レスリー・チャンだってこのときまだ30代前半。いい芝居をしている。まさかその後46歳と言う若さで自殺してしまうとは夢にも思わなかった。役どころは、碌に仕事もしないで女ばかり追いかけているダメ男。でも女たらしではあるけど、こんな男に女は弱いんだろうな。冒頭のサッカー場の売店の店員マギー・チェンを口説くところは有名。マギー・チェンに腕時計を1分間見させておいて、「今日は何日だい」「16日よ」「1960年4月16日3時1分前、俺たちは一緒にいた」なんて台詞を吐き、翌日は一緒に2分、そしてやがてふたりは1時間合うようになるって、キザだけどカッコいい。香港映画なんだけど、フランス映画の香りがする。このエキゾチックな感じが堪らない。こういうの日本映画でやったらどうだろうか。恥ずかしくて見られなくなってしまうのがオチのような気がする。 いろいろ名台詞が多い映画だが、私が今回気になってしまったのが、映画の終盤、これも有名なシーン。レスリー・チャンがアンディー・ラウに言う台詞。 「覚悟できてないのか? 人間なんていつ死ぬか分らないんだぜ」 そして、そのしばらくあとのシーン。やはりレスリー・チャンがアンディー・ラウに言う。 「最後に見る物が何か知りたい。だから目は閉じない。お前は? 死ぬとき何が見たい。長い人生でまだ見てない物が山ほどある」「何を見たいかって言われても・・・」「考えとけよ。船員は暇だろ? 人生は短い。今から考えとけ」 人生は長いのか短いのか。この映画を私が観たのは、私もまだ30代だった。人間いつ死ぬかわからないという意識は持っていたが、それほど切実に考えてなかった。そしてなんとなく人生は長いと思っていた。それが今、私は人生は短いと思えてきている。 レスリー・チャンは46歳で自殺。飛び降り自殺だったそうだ。そのとき彼には何が見えていたんだろう。 8月11日記 静かなお喋り 8月10日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |