July.15,2000 インターネット・バンキング

「おい、カバ公いるかい」
「あっ、こりゃ大家さん、今晩は」
「おや、なんだか浮かない顔しているけれど、どうしたんだい」
「いえね、明日は朝早くから仕事が入ってましてね、忙しくなりそうなんですよ」
「ほお、そりゃ結構な事じゃないか」
「まあ、そうなんですがね、ひとつ困った事があるんですよ」
「どうしたい、私に話してみなさい。大家と言えば親も同然、店子と言えば子も同然」
「そんなまずいツラの親を持った憶えはねえ」
「おまえねえ、そう言うと私のパンチが飛ぶのを忘れちゃいないだろうな。私は昔ボクサーだったんだからな」
「へえ、すいません。ついつい口癖になっちまってるもんですから」
「で、どうしたんだい。何に困っているんだい」
「実はね、大家さん。明日までに金を振り込まなければいけない業者があるのを、コロっと忘れてたんですよ」
「何だか、『男はつらいよ』のタコ社長みたいだな。そういえば、おまえ最近タコ社長に似てきたぞ」
「そりゃないじゃないですか。それより困ってるんですよ。明日は一日中、仕事になっちまうし、今日はもう銀行が閉まっちゃったし」
「なるほどなあ、そりゃ困ったなあ・・・・・・・。待てよ、おまえ確か、インターネット・バンキングに入ったんじゃなかったかい?」
「インターネット・バイキング? インターネットで食べ放題ができるんですかい?」
「ばか! バイキングじゃない。インターネット・バンキングだ」
「インターネット・バンキング? ああ、そういえば銀行で、しつこく薦められて、なんだかそんなものに入った気がしますね」
「そらそら、くずぐずしてないで、パソコンの電源を入れて、インターネットに繋いでごらん」
「へいへい」
「そうしたら、銀行のホームページにアクセスだ」
「ええっと、ふじさくら芸者銀行のホームページはと、ああこれだこれだ」
「よしよし、そのログイン・ボタンをクリックだ」
「ログインをクリックと」
「銀行で貰った契約者カードに書いてある契約者番号を打ち込んでごらん」
「契約者番号っと」
「それに、パスワードだ」
「パスワードを入れてっと。あれ、なんだかまた数字を入れろっていってますよ」
「それが確認番号だ。カードに表があって数字が出ているだろう」
「ああ、これですかい。横にアイウエオ、縦に12345。なんだか昔、プロ野球でピッチャーとキャッチャーが使っていた乱数表みたいですね」
「そうだな。あれは時間がかかるといって、禁止になったんだな」
「ええっと、イの1番の数字を入れろですかい。なんだか楽しいですね。ああ、出てきた出てきた」
「よし、そこから[振込]のところをクリックして、あとは指示どおりにすればいいんだ」
「なあるほど、これは便利だ」
「24時間サービスを受け付けてくれるから、夜中だろうが休日だろうがOKだ」
「大家さん、どうもありがとうございました。助かりましたよ」
「なあに、大家と言えば親も同然・・・」
「そんなまずいツラの親を持った憶えはない」
「そういうと、私のパンチが飛ぶと言っただろうが!」
「へへえんだ、そんなこともあろうかと大家さんから離れてますから大丈夫」
ボカッ!!
「い、痛え。これだけ離れていればパンチは当たらないと思っていたのに」
「バカ言え、私はな、現役時代は腕のリーチが長いことで有名だったんだからな」
「えっ、リーチですって。いけねえ、振り込まないように注意しなきゃ」

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