March.20,2001 ハヤシうどん

蕎麦屋のモリには、キツネもタヌキもいるのだ―――なんのこっちゃ。

モリがあるからにはハヤシもあっていいじゃないか―――なんのこっちゃ。

        築地場内市場のカレー屋[中栄]で500円のハヤシライスを食べながら、ふと思った。

なんでカレーうどんがあって、ハヤシうどんがないんだ!!

        何で今まで、こんな根本的なことに気がつかなかったんだろう。カレーがあるからにはハヤシがあっても何の不思議もないではないか!? 蕎麦屋のメニューにあるカレーそばにカレーうどん。特に冬場になると、これは人気メニューだ。蕎麦っ食いに言わせると、あんなものは邪道だなんて言うが、実は案外隠れカレーそば好きだったりする。

        不思議なことに、カレーそばやカレーうどんには、ご飯が合う。カレーそばをオカズにご飯を食べるのは旨いんですよ。

        それとですね、案外お薦めなのが、カレーそばの時間を置いてノビちゃったやつ。蕎麦屋でお銚子一本とカレーそばを同時に持ってきてもらって、チビチビとやる。カレーそばには手をつけない。10分くらいかけて酒を飲み終わったころが食べごろ。あるいは、出前でとってみよう。ちょうどノビて食べごろになっている。

        さて、この時点で、カレーそばはアツアツではなくなっているものの、片栗粉であんかけ状になっているから、まだある程度暖かい。悲惨なのは蕎麦の方。ツナギが少なくて蕎麦粉が多い蕎麦だと片栗粉のせいで固まってしまっていて、物凄く切れやすい状態になっている。箸を入れて蕎麦を引き上げようとすると、ブツブツと切れる。

        さあて、お立会い。よーくかき回して、口に入れる。出来たてのカレーそばは、カレーの味が強くて、蕎麦の風味が飛んでしまっているものだが、ノビた蕎麦の香りっていうものは強烈に匂い立ってくる。カレーの匂いなんて負けちゃう。これを食べるのが旨いんだけど、「ノビた蕎麦なんて食えるか」なんて言う人には、永遠に分からないだろうなあ、この旨さ。

        ええっと、何の話だったかというと、ハヤシだった。そう、もうお分かりでしょう。ハヤシそば、ハヤシうどんを作ってみようということだ。

        そうだなあ、今回はうどんでやってみようか。まず鍋に、かけうどんの汁を作って、暖める。ハヤシといえば牛肉だよな。ハイハイ、それじゃあ、鈴木の言うとおりに[和牛の切り落とし]ね。人形町の[今半]で買ってきましたよ。これを鍋に投入。それと玉ネギだな、ハヤシときたら。カレーうどんには長ネギだけれど、ここは当然玉ネギね。それとね、ちょっと反則なんだけれど、ミリンをちょっぴり入れちゃおう。これだと甘味が出るんだよね。玉ネギの甘味と勘違いする人もいたりするんだ、こういう料理。牛肉と玉ネギによく火が通ったら、さあて、ここに市販のハヤシライスの固形ルーを投入。よーくかき回して、ルーを溶かす。さあ、出来あがりだ。うどんを温めて、その上からハヤシ味の汁をかけよう。

        では、いただきまーす。  おおっ! むむっ!

        味はどうだったと思います? ねえねえ、長崎くん、また絶対にそれは美味しくないとったでしょ。へへへへへ。

        私も食べるまでは、絶対に食べたくないというくらい不味いと思っていた。それがですねえ、予想に反して、これが、う・ま・いんですよう!

        トマトの酸味が、そば汁に溶け合って、旨いのなんの! 私ねえ、これだったらハヤシライスで食べるより、ハヤシうどんの方が旨いと思ったほど。汁に溶け合うことによって、ハヤシのクドサが無くなる。旨いよこれ、絶対に。以前からそば汁にトマト味は合うという予感をうっすらと感じていたから、やっぱりねえという気持ち。蕎麦屋業界は何でハヤシそば、ハヤシうどんをやらなかったのだろう。

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