August.23,200 温たまそば

        たまごは、蕎麦屋の食材として欠かすことができないものだ。すぐに思いつくのは月見そば。元も子もなく言っちゃうと、これはかけそばの中に生たまごを入れただけだから、調理というほどの手間はない。あまりめったに出ないメニューのひとつだ。出前だったら、かけそばをとって、生たまごを入れればいいだけのこと。そっちの方が安くあがるよね。もっともこれが立ち食い蕎麦屋だと、割とよく出ているメニューなのではないだろうか? 月見そばって、どうやって食べます? 最初っから、黄身を箸で突っついて割って、汁の中に溶かしちゃいますか? それとも、しばらくはそのままにしておいて、途中で割りますか? あるいは、黄身だけチュッと啜ったりして。どうやって食べたっていいのだけれど、最大のポイントは卵が汁に流れ出した途端に、汁の味が変わってしまうこと。せっかくいい鰹のダシが出ているのが、変化してしまう。まあ、逆に言うと、不味い汁の場合は、卵を入れると急に旨くなるってことはありますが・・・。

        月見そばよりもちっょと手間をかけたのが玉子とじそば。といだ玉子を熱い汁の中に入れて固まらせたものを蕎麦の上にかけたものだが、丼の表面にキレイに敷けるようになるには、ちょっと技術が必用。あまり固くなりすぎるとキレイに敷けない。玉子とじそばは、特に女性に好きな人がいるようで、割とよく出る。これもちょっと汁の味が変化する。

        この玉子とじの技術をごはんものに応用したのが、玉子丼、カツ丼、親子丼。これも、一見簡単そうに見える料理だが、キレイに、しかも美味しく造るには、けっこう技術がいる。

        あと卵を使ったメニューというと、おかめそばに入れる卵焼き。毎朝、これを焼くのが私の仕事のひとつ。いまでこそ安定した卵焼きが焼けるようになったが、始めたばかりの頃は、うまくまとまらなかったり、焦げてしまったりで苦労したものだった。卵焼きは、おかめそばに具として入れても、汁の味は変わらない。

        ところで、温泉たまごってありますでしょ。黄身が固めで白身がドロドロなやつ。なんでも、65度くらいのお湯に4〜50分ほどつけておくと出来るらしいのですが、65度とか70度とかに保温しておく容器を手に入れることを考えたら、売っている温泉たまごを買ってきた方が早い。この温泉たまごを使ってみたらどうだろう。月見そばを作る要領で、かけそばの中に入れてみる。

        ははあ、これはいいかも知れない。卵の黄身が汁に流れ出さないので、汁の味は変わらない。しかも、この黄身が、いい具合に適度に半熟で旨い。私はけっこう気に入ってるんですが、どんなもんだろう。

        今は夏なんで、暖かい汁ものは、ちょっと辛い。冷したぬきの錦糸玉子の代わりにドーンと乗せてみました。ときどき、冷したぬきに生卵をかけてくれというお客さんがいるけれど、ちょっとマイルドになりすぎちゃうと思うんだけどなあ。冷たい蕎麦に温泉たまご。これもよく合います。

このコーナーの表紙に戻る

ふりだしに戻る