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客席放浪記

Act Against AIDS 2012 浅草寄席Vol.4

2012年12月1日
アミューズミュージアム織り姫の間

 Act Against AIDSの一環として催されているものの中でも、もっとも小さな会場での催し物かもしれない。なにしろ100人も入ればいっぱい。いわば素人落語会なのだが、高座に上がるのは只者ではない面々ばかり。
 主催者は小倉久寛。これにコント赤信号の三人(渡辺正行、ラサール石井、小宮孝泰)。それに山口良一。みんな役者やタレントとして有名な者ばかり。これに色物として、オオタスセリ、ウクレレえいじ、モエヤンが加わる。

 女性お笑いユニット、モエヤンのマエセツから始まった。「遠くからいらしている方はいますか?」の問いかけに、青森、岡山の声がかかる。さすが人気者が出る会だけある。

 山口良一が懐かしのテレビ番組『三菱ダイヤモンドアワー』のことをマクラにしている。毎週金曜の夜にプロレス中継とディズニーランドの交互で放送されていた番組。あのころ子供だったオジサンたちは、これに夢中だったものだ。今日の客層のかなりの部分の人が同世代。みんなの気持ちを盛り立てておいて『真田小僧』。出てくる子供の話術がまさに天才的。おとうさんの留守中におかあさんのところへ訪ねてきた男の人を「お父さんに用があってきたんじゃないの。お母さんに用があってきた人なの。だからお父さんは関係無いの」って言われたお父さんはたまらんだろうなぁ。

 モエヤンのスキャット・コント。スキャットを口ずさみながら演る無言コント集のようなもの。ふたりが鞄からいろいろな物を取り出して、それをコントのタネにする。バナナ、折り畳み傘、ミネラルウォーター、ポテトチップスなど。見て楽しむ可笑しさ。

 いつもながら自虐ネタから入るのが小倉久寛。自分の顔、目、背丈などを笑いのタネにしながら『反対俥』。猛スピードの人力車が途中でスピードが落ちていく。人力車のお客が「空が見えるぅ」と思ったのは坂を登っていたから、ということは、ここからは下り坂。ジェットコースターのように坂を落っこちて行く。

 オオタスセリは、危ない替え歌二曲のあと、自作の『ストーカーと呼ばないで』の弾き語り。これ、可笑しい。どうやらCDも出ているらしい。あとでチェックしたらYouTubeでも観ることができる。これはお奨め。知らない方はぜひYouTubeで。ひとりコント『喪主の挨拶』のあと、もう一曲『負け犬』。これも凄いなぁ。会場全員で「♪キャインキャイン」を大合唱。

 この会、毎年渡辺正行は『時そば』だったそうで、ほかのみんなも『時そば』を演りたがっていたのにできなかったとのこと。今年は渡辺が違う噺に挑戦するということで、今年はラサール石井『時そば』を。石井のは上方の『時うどん』の形。ただし言葉は東京言葉。いわゆる春風亭昇太が演っているもの。そこに石井らしさが加わった感じ。達者だよなぁ。

 仲入り後が渡辺正行。『時そば』をラサール石井に奪われて、今年持ってきたのが『寝床』。それでも途中で「みなさん、今ならまだ遅くないですよ。安定した今まで通りの『時そば』にするか、不安定なネタおろしを聞くか、どちらがいいですか?」 お客さん誰も『時そば』に賛同せず、やはり『寝床』に戻る。それでもさすがの渡辺正行。見台を持って番頭さんを追っかける旦那は、ほとんどもう人間ではなく妖怪の類。土蔵の壁をペタペタとよじ登る異様さ。

 ウクレレえいじは、マニアック物真似。『七人の侍』の志村喬。同じく『ゴジラ』の志村喬とか、微妙に似ているような似てないような、短すぎてわからないネタが、いつまでも続いていく。これもこれだけ量があると芸だね。

 そしてウクレレえいじとモエヤンのふたりが組んだユニット、キラウエア火山三姉妹。三人がウクレレを弾きながら持ち歌『アルジェリア、ナイジェリア』。それに徳川十五代に渡る将軍の名前が憶えられてしまう『徳川ミュージック』

 トリは小宮孝泰『厩火事』。人の話を聞いていないおかみさんに、仲人さんが辟易するところが、小宮版の特徴。夫婦の機微を描いたこの古典落語は傑作だと思うが、実は小宮さん、この噺を今回持ってきたのには、ある思いがあった。それを知る者には堪らなくなってしまう高座であったのだが・・・。

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