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客席放浪記

我らの時代 落語アルデンテ12

2015年11月25日
東京芸術劇場 プレイハウス

 白酒、兼好、百栄、一之輔の四人の会。主催している会社が組み合わせた四人だが、目の付け所がいいなと思う。この四人の共通点ってなんだろう。年齢でいうと、一番年上が百栄で50代、白酒と兼好が40代、一之輔はまだ30代。いわゆる若手といわれている人たち。今、脂が乗っている年代だ。次に四人ともマクラが面白い。噺が始まる前に、すでにもうひとつ面白い話を聴いたという満足感がある。そして噺に入ってからの工夫。古典落語を新しい切り口で作り直している。しかもスピード感がある。ひとり百栄だけが、今やすっかり新作落語一本になってしまったが、そのわかりやすくてコントのような作りの落語は、今までの落語になかった新しい味わいがある。

 この会は、会場が一定せず、公演のたびにコロコロ変わるのも面白い。今回は演劇のメッカ[東京芸術劇場]。しかも地下の小劇場ではなく、834席ある[プレイハウス]。落語公演は普段、地下の劇場を使うから、いつものつもりで地下に行ってしまったら、知らない芝居をやっている。チケットを確かめたら、二階の[プレイハウス]。あまり落語を聴くような雰囲気ではない劇場だよなぁ。重々しいデザインの小屋。

 開口一番前座さんは、三遊亭けん玉『やかん』。高いトーンの声が師匠の兼好に似ている。そういうふうに声を出せと教えられていのだろうか? 前座修行頑張ってね。

 春風亭一之輔も、そんなけん玉の声の出し方について触れ、某師匠のお弟子さんと彦根に仕事に行ったときのエピソードを語ってくれたのだが、これが可笑しい。そのお弟子さんがいかに、ものを知らないかという天然ぶりにゲラゲラ笑ってしまったが、落語家なんていうのは、そのくらいのキャラクターの方が落語も面白かったりするのかもしれない。もっとも、バカじゃできないけど。
 そんなマクラから入ったのは一之輔のオハコとも言える『鈴ヶ森』。泥棒の親分が、明らかにバカとしか思えない弟子に追いはぎのやり方を教える様子が、マクラで話していたお弟子さんとのやり取りと、どこか共通する笑いを生み出す。追いはぎのセリフを口移しで教えるところなんか、こんなにくどく演る人はほかにいないだろう。

 三遊亭兼好は自分の奥さんとふたりの娘のことをマクラに。なかでも次女のエピソードが可笑しくて大笑いしてしまったが、こんなところでこんな話をされているとは娘さんも知らないだろうなぁ。落語家の子供に生まれるとネタにされる覚悟が必要だね。
 噺に入って『短命』。導入部、弔いの席での悔やみの挨拶のやり方を隠居さんに訊くところをキチンと演っていた。「ご愁傷さま」をそれまで間違えて「ごちそうさま」と言っていたなんていうギャグもブラックでいい。

 春風亭百栄『キッス研究会』。思春期の男の妄想世界。これを聴いたのは三回目かな? いつも笑ってしまうが、自分の恥ずかしい思春期を思い出すと、私だって近いような妄想を抱いていたような。思い出すと気持ち悪い。この噺、女性は嫌がるだろうなと思っていたが、案外楽しそうに笑っているから、女性の側も思春期は同じようなことを考えていたのかもしれない。

 トリは桃月庵白酒。百栄の噺を受けて、自分もモテなかったというマクラから『お見立て』という流れはうまい。杢兵衛大尽は金持ちというよりは田舎者というキャラクターで演じられる多いが、なにしろ喜瀬川花魁に蛇笏のごとく嫌われている男。嫌な奴という演じ方が白酒の場合、一段と強調されているよう。番頭のキャラクターというのも、どこか人を茶化して喜んでいる白酒の子供っぽいところに重なる気がする。番頭が杢兵衛の様子があまりに可笑しいので、笑いをこらえるためにする工夫とかは白酒オリジナル、この噺をうまく作り直している。最後の墓の前で畳み掛けるような笑いを取るところで、立川雲黒斎家元の墓が出てきたりの笑いのスピード感に酔わされた。

11月26日記

静かなお喋り 11月25日

静かなお喋り

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