我らの時代 落語アルデンテvol.14 2017年4月7日 なかのZERO 小ホール 落語は、その演じる人の個性を楽しむものでもある。だからあまり個性のない人の落語を聴くのはつまらない。特に古典落語の場合は、基本的に同じなのだから、個性が感じられない人のものを聴くのは苦痛になってくる。できたらちょっと毒のある人のものの方が面白い。あまりに常識人だったりする人の端正な落語は面白くない。何処にでもいる人ではなく、どこか道を踏み外してしまった人、常識外れの人、そんな人の落語が面白い。もっともこれがまた度が過ぎてもまた別で、聴いていて、「ああ、この人は面白いけれど、実際に会って、お友達になりたくはないな」という人の落語も聴いていて好きになれない。適度な毒のある人。そんな人の落語が一番好き。『我らの時代 落語アルデンテ』の四人は、ちょうどいい塩梅の毒を持った四人だと思う。 開口一番前座さんは、桃月庵ひしもちで『豆屋』。前座修業頑張ってね。 会場の[なかのZERO 小ホール]は改装して、今月からリニューアルオープンしたそうで、内側の壁が明るくなった。春風亭一之輔に言わせると、「以前は刑務所みたいでした。お客さんはみんな囚人に見えました。今は病院みたい。お客さんは患者さん」。アハハハハ。 こちらに来る前に、お子さんと『キングコング 髑髏島の巨神』を観てきたそうで、そのCGの凄さに圧倒されたとか。「落語はキングコングに勝てるでしょうか」と噺に入った。会場がリニューアルしたということで、お客様を取り込むということで泥棒の噺『鈴ヶ森』。一之輔のオハコでもある。個性的すぎる子分の泥棒は、いつ聴いても可笑しい。 プロ野球が開幕した。好きなチームを持っている人は、これから一喜一憂のシーズンが始まる。開幕早々三タテをくらって、「もう今年はダメだ」と、早くも肩を落としている某チームのファンがいたりしている。そこへいくと私は、ま〜ったく野球に興味がないから気楽なもの。 春風亭百栄は、シーズン開幕に合わせてか『ホームランの約束』。入院中の少年のところに、球団から言われて、いやいや見舞いに来たんだと露骨に本音を言い放つプロ野球選手。サインボールを渡すが、そのサインだってあらかじめ書いてあるもので、本人が書いたかどうかもわかったもんじゃない。百栄の噺で面白いのは、『マザコン調べ』だとか『桃太郎後日談』のように、明らかに嫌な人物であることを隠すことなく登場する人物が出来たりすること。あまりのことに相手が突っ込むことさえ放棄してしまうほどの自己チューの権化みたいなやつ。こんなやつが出てくると、とてつもなく面白くなる。いや〜、今日も笑った笑った。 リニューアル、プロ野球シースン開幕ときて、今は新年度。落語の世界も、高校や大学を卒業して弟子入りし、寄席に前座として入ってくる人も多い。三遊亭兼好は、そんな楽屋入りしたばかりの前座に、優しく接してくれる先輩ほど実は性格が悪かったりするとマクラで話す。 花魁なんていうのも同じ。客に口ではうまいこと言って、心のなかは客のお金にしか興味がない。『辰巳の辻占』の花魁だって、すべて金。あからさまに金を要求する手紙を貰っても男は信じてしまう。 確かに、あまりいい人っぽいのは信用しない方がいいってことですな。、 毒舌と言えばこの人、桃月庵白酒。「別に悪口を言っているわけじゃありません。見たそのままを言っているだけ。腹黒い人間は腹黒いだけで、それをそのまま言ってるだけ」。だけど白酒の毒舌ってなぜか憎めないんだよんぁ。私は茶化しているだけだと思っている。 軍歌を歌いながら歩いてくる酔っ払い。 ♪さらばラバウルよ また来るまでは そこに車屋が「乗ってください」と言う。 「オレは、車屋なんて呼んでないよ」 実は「♪またクルマでは」と歌っていたというギャグ。これですっかり白酒ペース。 珍しく『替り目』を最後まで聴くことができた。『替り目』の酔っ払いは憎めない人物ではあるのだが、サゲの方まで聴くと、そうとも言えなくなる。なにせ、うどん屋に酒の燗をつけさせて、うどんは「嫌いだ」と食べないんだから。 4月8日記 静かなお喋り 4月7日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |