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客席放浪記

第126回朝日名人会

2013年1月19日
朝日ホール

 開口一番前座さんは柳家緑太『やかん』。前座修行頑張ってね。

 三遊亭金兵衛は、この秋にいよいよ真打昇進が決まった。金兵衛改〆金朝になると言う。「キンチョウというと蚊取り線香のような感じもしますが、飛ぶ虫を落とす勢いで頑張ります」。寄席のトリは落とさないでね。ネタは『蔵前駕籠』

 寄席では、目の悪いお客さんがいると、目が見えない人物が出てくる噺はしないことになっている。「目の見えないお客様の団体が入ったとき、柳家さん喬師匠は、お客さんを前にして『私は、いい男でございます』と言ったことがある」と、古今亭菊之丞『景清』へ。
 この噺、なんだか説教臭くてあまり好きになれない。それでも先代の桂文楽が演ると感激してしまったのだから、これも演り手次第なのかもしれない。菊之丞がもっと年を取ったときにまた聴いてみたい気がする。

 「このあと、仲入りを挟みまして、私の師匠さん喬が出て参ります」と柳家喬太郎。「あるとき師匠がこんな事を言い出しまして、『オレの名前にはひらがなが入っているだろ。お前はいいなぁ、漢字三文字。お前が師匠でオレが弟子みたいだな』。私の名前は師匠が付けたのでございます」。
 噺はつい八日前にも鈴本で聴いた『小言幸兵衛』。長屋をひと廻りして小言を言って廻る大家さん。井戸の前で顔を洗っている借家人を見れば「ひとりでいつまでも顔洗ってるんじゃない」。後の人のことを考えてない人って今でも多いよね。幸兵衛さんならずとも、小言のひとつも言いたくなるときがある。小言とは、細かいことをことさらに言う事。あまり言うのも迷惑だけど、言いたくもなる事が世の中多い。多くの場合、どっちもどっち。それを笑いに変えるところが落語。
 終盤の妄想世界は聴いていると『男はつらいよ』のトラさんだなぁ。先に先に妄想を作り上げていく。

 仲入り後が、柳家さん喬。「私の師匠の柳家小さんは酒はあまり強くなかったですね。燗酒なら一合か、せいぜい一合半。冷だとレモンのスライスをたくさんと氷をたくさん入れて呑む。これをオリジナルのカクテルで、サンコウと呼んでいましたけどね。なんのことない、自分の名前小さんをひっくり返しただけ」 さん喬自身あまりお酒は飲まないらしいが、酒の話題をマクラにして『棒鱈』
 さん喬の噺は、とてもリラックスして聴けるのがいい。この『棒鱈』も人によっては、力が入りすぎてしまう。なにしろ酔っ払いの噺だから、ついつい力が入ってしまうのは無理もないのだが、さん喬は爆笑を取ろうとしない。クスクス、クスクスとした可笑しさ。それでいてその楽しさが身体に沁み込んでくる来るんだなぁ。

 トリは桂文珍。スマートフォンをマクラにしている。相変らず普通の携帯電話の私は今や少数派。「リンゴの木を育てるアプリというのがありまして、毎日ポイントを買ってやっていると、ある日、本物のリンゴがひと箱家に届くらしい。中を開けてみると全部一口ずつ齧ってある。誰が齧ったんだろうと思ったら、サムスン」
 噺は新作落語『憧れの養老院』。今や養老院という名前は、上から目線でよくないとされて老人ホームだから、随分以前に作られたものなのかも。私は初めて聴いた。老人介護の噺かと思ったら、老人ホームに入る余裕のない老人が、三食食べさせてもらえる刑務所に入るために銀行強盗を企む噺。なんだか現実にありそう。・・・うーん、私も笑い話ではなくなりなりそうだが・・・そうか、そういう手があったか・・・なんてね。

1月20日記

静かなお喋り 1月19日

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