直線上に配置

客席放浪記

2012年4月1日浅草演芸ホール四月上席夜の部

 浅草演芸ホールの前に着いたのが18時25分。スピーカーから、春風亭昇太の声が聴こえてくる。客席に入ると、ドカン、ドカン受けている。さすが昇太だ。外で聴こえていたのはマクラのような感じだったが、すでに『ストレスの海』に入っていた。海にゴムボートで出た夫婦が、くつろいでいる描写を、静かに聴いていた観客が、「青い海、青い空、白い雲、空気の抜ける音・・・」で、再びドカンと沸く。さすがに人気者だ。

 昇太の高座が終わると、ここを潮時と帰るお客さんが何人かいる。空いた席にスッと入る。鏡味初音が舌っ足らずな声で挨拶して傘廻しが始まる。久しぶりの浅草演芸ホール。座席に座ってくつろぐ。「さあ、落語を聴くんだ」というホール落語特有のピリピリした感じは、ここには無い。ゆったりした時間に身を任せる快感とはこういうのを言うんだろう。

 初音ちゃんが楽屋へ消えると、粟餅の出囃子が聴こえてくる。あれ、三遊亭遊雀? どうやら代演に入ったらしい。これは儲けたという気になってくる。長いマクラのあと、おや、『堪忍袋』。そんな持ち時間はないでしょと思ったら、『堪忍袋』まで行かない序の部分だけでサゲた。なーるほどー、こういう手もありか。夫婦喧嘩の部分だけで、大いに受けている。特に女性は似たような経験でもあるのか、大喜びの反応が返ってくる。

 仲入りが入って、春風亭柳太郎は新作の『神アプリ』。スマートフォンのアプリをテーマにした落語だが、ここのお客さんのどれほどの人がスマートフォン利用者なのかは疑問。だって、私もスマートフォンじゃないもの。イマイチ、わかんなーい。はい、私もジジイであります。次に買い替えるときは、やっぱりスマートフォンかな。それまで待っておくれー。

 マジック・ジェミーのマジック。トランプ当てのカードがオレンジの中から出て来て、お客さんもみんなびっくり。女性のマジックは華があっていい。

 いつもノリノリの高座を観せてくれる三遊亭笑遊『寄合酒』。火を熾そうとしている男がなかなか火が付かないでいるのを、大声で呼ぶ。「なんでそんな大声を出すんだよ」 「寝ているお客さんを起こすんだよ」 「お客起こして、火ぃ熾きなきゃ、しょーがないだろ」

 三遊亭金遊は、永平寺に座禅体験に行った話を漫談風に喋り、与太郎小噺『他行』

 新山ひでややすこの夫婦漫才。やすこが『男はつらいよ』のメロディーで♪女というもの辛いもの 腹で笑って 腹で笑って顔で泣く 顔で泣く と歌えば、ひでやが「君はお雛様みたいだね」と言う。「あら、うれしいわ」と答えるやすこの腹を見ながら「三段飾りダネ」 春休みなのだろう。最前列に子供がいて受けている。夫婦の様子が自分の両親にダブるところがあるのだろうか?

 昔昔亭桃太郎が、目の前に子供が来ているのに、きわどいマクラを振っていく。それがなぜか子供に受ける。「子供から拍手されるとは思わなかった」 ネタは『歌謡曲を斬る』。俎板に乗せる曲が古すぎて子供はわからないだろうなあ。

 江戸物売り声の宮田昇司も子供に気が行くらしい。「おいくつ? 十歳? お若くみえますね」

 トリは春風亭柳好『寝床』。すごいスピーディ。最初から最後まで立て板に水とはこのことか。それでいて30分ほどかかったのだから、キッチリやっているのだ。余計なものは入れてないのだが、流れるような鮮やかでメロディアスな『寝床』に聴き惚れてしまう。こんな旦那さんならいいのにね。

 21時終演。

4月2日記

静かなお喋り 4月1日

このコーナーの表紙に戻る

トップ アイコンふりだしに戻る
直線上に配置