2012年8月22日浅草演芸ホール八月下席夜の部 夜の部はもう始まっていた。入場してみると客席はいっぱい。高座は桂歌蔵が『宗論』を演ってる。一番後ろの壁に背中を付けて立ち、様子をみる。 次の三遊亭とん馬は漫談から、九官鳥の小噺と、猿の小噺。立ち上がって『かっぽれ』を踊ってくれた。 松旭斎小天華のマジック。ロープやスカーフを使った、一見誰にでも出来そうで、実は難しいマジック。「みなさんもウチに帰ったらやってみてください」って、出来ないよ。 とにかく面白い落語を聴きたかったらこの人、三遊亭笑遊。持ち時間が短くても平気で長めの噺を始めたりするので、どうするんだろうと思っていると、その噺の一番面白いところだけをサラッと演って「冗談言っちゃいけねえ」でサゲて、スッといなくなっちゃう。演ってる最中はいつも乗り乗り。好きなんだよなあ、この人。今日は『弥次郎』が始まった。これならどこで始めてどこで切ってもいい。案の定、一番受けるとこだけ演って、いなくなっちゃった。 お客さんが何人か帰ったので、前の方の席に座る。「島倉千代子さんは、とっても親思いなんだそうで、選挙にもお母様の手を取って一緒に行くんだそうですよ。投票(東京)だよ、おっかさん」 三遊亭小圓右は『初天神』。 最近ダイエットに成功したと聞く、自虐漫談のぴろき。そういえば痩せたみたい。これじゃあ「ハゲ、チビ、デブ」の自虐の一端が使えなくなってしまうなあ。「温泉に行ったら混浴でしたぁ。中に入ったらオバサンがひとり。がっかりして、そのあとストリップ見に行ったら、踊り子さんは混浴にいたオバサンでしたぁ」 昔昔亭桃太郎は『勘定板』。うへー、よりによってこの汚い噺かあ。それでサゲの部分でカリントウが出てくる。たまたま私の隣の人が、あらら、カリントウを食べているところ。こんなことってあるんだなあ。もっともご当人は平気で、アハハハハと笑いながら観ていたけど。 仲入り後は、恒例禁演落語の会。 お馴染み長井好弘の解説から。戦時中に、あまり国威高揚に繋がらない、よろしくない噺を封印したという事実を改めて思い起こし、平和のありがたみを感じつつ、もう二度とそんなことはごめんだと、そのよろしくない噺を聴こうという趣旨の企画だ。すっかり喋りなれた長井好弘の解説に聞き惚れる。得意ネタを封印された志ん生と円生が満州に渡ってしまったのが終戦直前のこと。そんなふたりのことも織り交ぜつつ、楽しい語りを聴かせてくれる。 「上野駅から至近距離にあるアパートに住んでいます。六畳、四畳半の二間で、一万一千円。安いでしょ? でも部屋は6階で階段無し。怪談噺でした」と三笑亭夢吉。ネタは『疝気の虫』。あとから知ったら、この日この噺のネタおろしだったそうで。それにしてはいい出来じゃないの。 ここ数年、 この人のこの噺をここで聴かないと物足りない。橘ノ圓満の『おはらい』。大神宮が吉原に行くという、とぼけた噺なんだけど、なんとも風物詩になってきた。 新山ひでや・やすこの夫婦漫才。「世の中、節約が大事だね」「あら、私もやってるわよ。風呂の残り湯」「えー、何に使ってるんだい?」「あなたの飲むコーヒー」「ほんとかい?」「コクがあっておいしいって言ってるじゃない」 三遊亭圓馬は、この位置で『付き馬』を熱演。こりゃあ、トリの人は困るだろうなあ。 春風亭美由紀が戯れ歌を披露して、 トリの三遊亭金遊。この人は、前にどんな人が出てどんな噺をやろうがマイペース。飄々と演る『錦の袈裟』は絶品。さすがだね。 どうしても禁演落語は廓噺が多くなる。せっかく掘り起こした禁演落語だが、演る方も聴く方も、もう廓自体を知らないんだけどね。 8月23日記 静かなお喋り 8月22日 このコーナーの表紙に戻る |