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客席放浪記

浅草演芸ホール正月二之席夜の部

2013年1月13日

 仲入りから入場。

 「正月興行ですので、いつもよりたくさんの芸人が出てきます。一組の持ち時間はいつもの1/3。前座さんに『私の持ち時間、何分?』って訊いたら、『1分でお願いします』だって」 桂米福はそう言って『雑俳』のさわり。

 宮田陽・昇の漫才。「去年の明るい話題と言えば山中伸弥教授のノーベル賞受賞ね」「少し前までポルノ映画撮ってたのにね」「それは山本晋也。ISP細胞でノーベル賞を貰ったんだよ。いろいろな医学に応用できるんだ。例えば豚の脳を持ったお前も作れる」「・・・うん」「豚の爪を持ったお前も作れる」「?」「豚の心を持ったお前も作れる」「それはもう豚だろ!」「豚と言えば、相撲ですが」「失礼だろ!」

 持ち時間が短いと、どうしても落語のネタはやりにくい。桂富丸も漫談だ。「飛行機の中でお子さんが遊んでましてね、うるさくてしょうがない。CAさんに飛行機のオモチャを貰って、通路で『ブーン』なんて言って走り回ってる。ああいう子は今に、ひこう少年になる。親も見て見ぬふりですよ。上の空。そのうち子供が転んでコブ作って、空見たことか」

 持ち時間が短かろうが爆笑させる三遊亭笑遊『まんじゅうこわい』に入った。時間が無いと言うのに序の部分が長い。金のない長屋連中が集まってガヤガヤ。酒が無いから乾物屋で買ってきた麩と白湯で、いっぱいやろうなんて話で盛り上がっている。これがまた可笑しいんだ。「お腹に入った麩が、白湯に浸かると『あっ、吸ってやんないといけないな』と思うんだよ。オッパイと白湯は吸ってやんないといけないんだよ」 こういうので客席は大受け。あらあら饅頭まで行かないで時間切れだよ。でもいいんだ、この人の落語は。

 北見マキは縛った指をマイクスタンドに通すマジック。一見地味だけど、不思議さは大きい。指の縛り方にタネがあるんだろうけど、鮮やかだねぇ。

 三遊亭右紋は普段からもやってる『ババァんち』。団塊の世代に生まれた右紋が、町内に必ずあった駄菓子屋の思い出を語る漫談。私は団塊の世代よりちょっとあとの生まれだが、駄菓子屋は毎日通った。どこの駄菓子屋もおばあさんがやってるの。今から考えると、おばあさんと言っては失礼で、もっと若いおばさんくらいの人がやっていたんだけどね。着色料とサッカリンで作られた、いわゆる駄菓子が、普通のお菓子屋さんの店先に並んでいるものより魅力的だった。もっとも一日に貰える十円とか二十円という小遣いじゃ、普通のお菓子屋さんのものは買えなかったのだけど。ソースいかに、ぽんずいか。あったっけなぁ。言われて突然思い出した。よく買ってしゃぶったっけ。「クジをよくやりました。魅力的な賞品が吊るしてあるの。粗悪な紙を舐めると字が出てくる。たいていスカ。一番最初に憶えた字はスとカ」

 三遊亭遊三は、これまたいつもやっている『パピプ』。こういうネタ持っている人は強いね。

 東京ボーイズの歌謡漫才。♪AKB48。謎かけ問答で解くならば じゃんけん大会と解きまする あっちゃんもいてホイ

 持ち時間の少ない顔見世興行だが、トリの桂米丸はたっぷり30分の持ち時間。考えてみたら、米丸今年、88歳になるはず。米寿だよ。最近高座でかけている自分の今までの噺家人生を語る『若き日の思い出』。入門から修行時代の思い出。師匠の今輔に教わった事などを、小さな声で静かに語っていく。「早く落語やれとお思いでしょうが、あとでちやんとやりますから」と言いながら、話はさらに心臓の手術を受けたときの話などに広がっていく。結局最後まで落語はやらずに終わってしまうが、三か月後に米寿になる米丸の、そんな姿を観ているだけで、とても心安らかな気持ちでいっぱいになってくる。

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