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客席放浪記

浅草演芸ホール一月二之席夜の部

2014年1月12日

 去年に続いて、桂米丸がトリを取っている浅草の二之席夜の部へ、仲入りから。

 正月興行だから、ひとりひとりの持ち時間が少ない。桂米多朗も漫談だ。「私の師匠は米助、大師匠が最後に出て参ります米丸でございます。それで米の字をいただいたのでございますが、日本が米文化でなかったら、こうではなかったでしょう。米丸はパン丸。私はパン多朗。パンタロンってズボンみたいでごさいます。師匠の米助に至っては、パン助!」

 漫才の東京丸・京平。どうやら今日は京丸が一杯飲んで高座にあがってきたらしい。ろれつも怪しくて、なんだかグズグズ(笑)。殿様と三太夫をやってる途中で客いじりが始まり、どこまでやったのかわからなくなる。それでもちゃんと二段落ちでお客さんを沸かせるあたりは見事だ。正月だもん、いいよね。

 桂幸丸も正月をテーマの漫談。なまじ短い時間でネタをやられるより、この時期はこういうのが私はいい。「年賀状に『お元気ですか?』と書いてくる人いますね。これが私、一番嫌でね。テレビ出て無いから。テレビ出てたら元気だってわかるものね。中には『テレビでご活躍かと・・・』って書いてくる。出て無いよ!」。テレビに出てるからって、いい芸人とは限らないんだよね。

 三笑亭茶楽『紙入れ』。出入り先のおかみさんの浮気相手にされ、亭主が帰ってきたので紙入れを置きっぱなしで逃げ出した男。バレたかどうか心配で、翌朝戻ってくる。「バレてたら、ごめんなさいと謝りながら逃げればいいんだから。謝ることは悪いことじゃないからな」と自分にグズグズと言い訳する姿が妙に可笑しいやね。

 松旭斎小天華のマジック。ついに一言も喋らずにマジックだけやって去って行った。いっそ気持ちがいいか。

 桂米助はお得意のスポーツ漫談。オリンピックやサッカーの話、そして結局野球に行き付いて長嶋茂雄。このままこれでいくのかなと思ったら『猫と金魚』だ。猫に狙われないように金魚を高い棚の上に上げてくれと言われて、「金魚は棚の上に上げましたが、金魚鉢はどうしましょう?」「ドンとキホーテじゃないんだ。ドン・キホーテでひとつなんだよ。なぜ金魚と金魚鉢を一緒のものと考えないんだ」。浅草演芸ホールの隣にドン・キホーテができたから、この例えは受けるね。

 三遊亭遊三『替わり目』。これはもうこの人のオハコ。この人の場合、酔っ払いより、おかみさんの様子がとても色っぽくていいんだよなあ。

 東京ボーイズの歌謡漫談。「♪猪瀬元都知事という人を 謎かけ問答で解くならば 除夜の鐘と解きまする 金を突かれて終わります」

 「待ってました!」のトリ桂米丸。御年88歳。米寿の噺家。にこやかにあれやこれや漫談を語っていく。『ポパイ』のオリーブは笑う時に片足を上げて笑うとか、「風呂に入ると浮力を感じますが、これを発見した人は風呂に入っていたときに発見したんじゃなくて、外を歩いているときに思いついた。アルキメデスと言って」なんてことを静かな声で語る。客席は米丸の言葉を聞き逃さないように、シーンと耳をすます。そしてドッと笑いが広がる。時にネタを忘れて迷走の果てに、「この先、忘れました」なんて言う事もあって、それでもお客さんは暖かい。なにを話してもらってもいいから、いつまでも米丸の高座を聴いていたい。やがて短めの『夢ビデオ』に入って、高座を終えた。緞帳が下がって来る。米丸はにこやかに客席に手を振っていた。

1月13日記

静かなお喋り 1月12日

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