浅草演芸ホール五月上席夜の部 2015年5月6日 柳家小三治の独演会を観ようと思ったら、何ヶ月も前に前売券を購入しなければならない。しかもほとんどが大きなホール。前の方の席で観たいと思っても必ずしも前の方の席が取れるとは限らない。でもどうしても小三治を前の方で観たいとなったら寄席に行けば観ることができる。立川流の落語家などと違って寄席にだって出ているのだ。小三治とて、正月やらGW、お盆といった書き入れ時には寄席に出る。中でも浅草演芸ホールなら、早くから入場していなくても、仲入り後くらいにふらっと入っても何とか座れそうの予感がある。GWの最終日、浅草演芸ホールの仲入りを見計らって入場。やはり小三治ともなると混んでいたが、なんとか真ん中あたりに空いている席を見つけることが出来た。 GW興行ともなると、トリの小三治の前の顔づけも豪華だ。くいつきからして柳家三三だもの。ほお〜、『道具屋』だよ。与太郎の能天気さが楽しい。客が来る前から妄想が広がる。「儲かったらどうしようかな。カブ買っちゃおうかな。うん、たくさん勝って漬物にしちゃお!」 江戸家小猫の動物ものまね。ホトトギス、ホオジロと鳴いてみせて、「都会で、もうひとつ、ホの付く鳴き声を聴きました」とやってみせたのが、歩道が青信号のときの音。アハハハハ、あれも鳥なの? 動物園に行ったりして新しいネタも積極的に開拓しているようだ。テナガザルの鳴き声はお見事! 桃月庵白酒は『浮世床』の本の部分。「読んでくれ」と言われて、「読んでやってもいいけど、途中で帰るなよな。あれはけっこうシッョクだ。それとケータイの電源は切れよ。バイブもダメだ」。寄席の注意事項まで絡ませてる。 柳家さん喬のマクラは、いつも季節の話題を盛り込んで風流なような、そうでもないような語り口がなんとも可笑しくて好きだ。「鯉のぼりを東京ではあまり見なくなりました。マンションの五階か六階あたりでしょうか。子供が紙で鯉のぼりを作って飾っていました。きっとあの家族は夢や希望があるんじゃないかと・・・だからどうなんだと言われても困るんですが・・・」。いつもこんな調子なんだけど、聴いていてウフフって気持ちになる。いいなぁ、さん喬のマクラ。ここから何に入るのかと思ったら『時そば』だよ。季節外れ〜。アハハハハハ。 ホンキートンクの漫才。「高校時代、ヤンチャしてましたから」「ヤムチャ? 小籠包か!」「違うよ、学校行くにも短パンにランニングだよ」「山下清かよ!」 柳亭市馬は、おっ、『普段の袴』だな。古道具屋にひとりの侍が入って来る描写から。「かといってここは与太郎が店出しているようなとこじゃない」。アハハ、三三の『道具屋』を拾ってみせたな。 ヒザは林家正楽の紙切り。「それではお客様からのご注文で」と言った途端にあちこちから一斉に声がかかり正楽本人も聞き取れないほど。その中からかろうじて聞き取れた『寅さん』『藤の花』『桂米朝』『五代目柳家小小さん』。『寅さん』はあっという間に輪郭を切ってしまい、それに目鼻を付ける。『藤の花』は藤棚の下に藤娘という構図。小さんもおにぎりを切りぬいて、それに目鼻を付ける。マンガっぽいけど似てる〜。 前座さんが紙切りの後片付けをして、座布団を返し、湯飲み茶碗を持ってくる。メクリが返って小三治の名前が出ただけで大きな拍手が来る。こんなのはなかなか無いことだ。出囃子が鳴って、柳家小三治が出てくると、さらに一際大きな拍手。さて今日は何を聴かせてくれるんだろう。今日はトレードマークの長いマクラもなく、泥棒の噺に入って行った。なんだろう。『鈴ヶ森』かな? それともお得意の『花色木綿』かな? と、へえー、今日は『出来心』だよ。この軽い噺を25分かけてやるのが小三治流。空き巣に入った家の者に見つかって「最後兵衛さんのお宅はどこですか?]」と訊いて、「俺がその最後兵衛だ」と言われて大慌てで逃げ出す。「なんで咄嗟に最後兵衛なんて妙な名前をあのとき思いついたんだろう・・・そうだ、表札見て入ったんだ!」でサゲ。 ふらっと思いついて寄席に行く。当日に木戸銭を払って、トリの小三治と、その前のいくつか聴いて帰る。これが贅沢ってもんだ。 5月7日記 静かなお喋り 5月6日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |