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客席放浪記

太福三席

2016年3月18日
日本浪曲協会広間

 先月、駒込の地域寄席で初めて玉川太福の浪曲を聴いてからというもの、この人の浪曲をもっと聴いてみたくなった。田原町にある協会事務所で三席やる会があると知り、出かけた。
 たまたまDVD用の収録がある日。どうやら今日は新作浪曲ばかりを三席ということらしい。

 まずは新作浪曲をやってみようと思ったという経緯から語り、一席目は『地べたの二人 おかず交換』
 どこか海沿いの工業地帯の昼休み。近所の工場に勤めているらしい50代の男斎藤と30代の男金井が、地べたに座り弁当を食べている。斎藤は愛妻弁当、金井は弁当屋で買った唐揚げ弁当だ。斎藤は金井のタルタルソースのかかった唐揚げが気になる。ひとつ貰えないかと言って、ひとつ受け取る。それてじゃあ代わりに、斎藤のオカズからも何かひとつあげるということになるのだが・・・。職場の休み時間のちょっとした光景をスケッチしたものだが、これを浪曲でやると何ともいえない可笑しみが沸きあがてくる。
 どうやらこれはシリーズらしくて、このふたりが地べたに座って話をするというエピソードがほかにもあるらしい。

 二席目は昨年末に亡くなった先輩、国本武春の思い出を、自分の今までの浪曲人生と共に語る『国本武春師匠の思い出』。後輩思いで優しく、人一倍の努力家。芸談も面白くて始まると止まらなかったといったエピソードを浪曲に乗せて語る。浪曲に詳しくなくても、グイグイと引き込まれてしまった。ああ、こんなことならもっと国本武春の浪曲を聴いておくべきだった。

 三席目が、三遊亭白鳥の『任侠流山動物園』。太福は人気漫画『ワンピース』などもペースは清水次郎長だと分析。もともと『清水次郎長伝』などは浪曲が得意とした分野。そこで流れの豚次シリーズからの代表作を浪曲に。なるほどこうやって聴いてみるとこの噺、落語よりも浪曲の方がしっくりくる。「江戸っ子だってね、寿司くいねぇ」「パンダの生まれよ」なんていうギャグが浪曲のなかで交わされると、また一段と面白い。動物が人間の言葉を憶えようとするくだりも、園長が動物に浪曲をやらせて憶えさせるなんていう面白い趣向。
 どうせなら全十話、浪曲の形で聴いてみたいのだけど、太福さん、やってくれないかなぁ。

 ハネたあとは玄関口に回って、靴を履くお客さんひとりひとりに挨拶をしてくれた太福さん、次回もぜひ、この広間での会に来たいと思った。

3月19日記

静かなお喋り 3月18日

静かなお喋り

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